【今日のタブチ】フジテレビVSダルトン…「見えているもの」の後ろに隠されている「見えていないもの」…「劇場型ガバナンス」に国民や企業は騙されている~これは「対立」ではなく〝演出された〟緊張関係だ~「ヒール」を演じているダルトンの本当の思惑

アメリカの投資ファンド運営会社、ダルトン・インベストメンツ(Dalton Investments LLC)が、「物言う株主」としてフジ・メディア・ホールディングス(FMH)への株主提案や書簡の送付で注目を集めている。ほとんどのメディアがこれを「ダルトンVSフジ」という構図として強調し、「対立」として描いている。だが、果たして本当にそうなのか?
私は、「ダルトン」は個人名ではなく、いわば「演出家」としての集団名義と言えるのではないかと考えている。まさに「劇場型資本主義」の舞台裏に潜むプロデューサー集団だ。したがって、両者はむしろ「緊張を伴った共生関係」と見るべきだ。
その理由は明白だ。
「見えているもの」=表層にある「対立構図」は、「アクティビストVS旧体制」であり、改革派と守旧派の対立だ。しかし、「見えていないもの」=深層にあるものとして見逃してはならないのが、株主としての「得」と市場の反応だ。今回、ダルトンの提案が却下されたにもかかわらず、株価は上昇。これは市場が「改革圧力の存在」そのものをポジティブに評価した結果と考えられる。ダルトンは約7.2%の株式を保有する大株主であり、株価上昇によって資産価値が増大。つまり、提案が通らなくても「損はしていない」どころか、市場の期待感によって間接的に利益を得ているのだ。
フジ側も、ダルトンの提案を拒否しつつ、一部のガバナンス改革(社外取締役の増加など)を取り入れることで、一定の譲歩を演出している。結果的に、企業価値の向上と株主の満足を両立させた格好となった
これは、「対立」ではなく〝演出された〟緊張関係と言えるだろう。
ダルトンは「改革圧力」という役割を果たし、フジは「改革の主体性」を演出。両者は異なる立場から、結果的に企業価値向上という「同じゴール」に向かって動いている。これはまさに、表では対立を演じつつ、裏では市場の期待を巧みに操作する「劇場型ガバナンス」である。いわば、脚本は違えど、舞台の興行収入は分け合っているような構図だ。
では、ダルトンはこの舞台において具体的にどんなドラマツルギー(役割)を担っているのか。
ダルトンは「アクティビスト」として、「市場の演出家」という役割を担っている。具体的には以下の3つの「顔」がある。
1. 物語の「起承転結」を仕掛ける存在
彼らの存在があることで、企業は「転」=変化の圧力を受け、観客(市場・社会)は「結」=結果を見届ける構えになる。アクティビストは、企業の停滞や不透明性に「問題提起」という形で「起」を与える。FMHに対する提案書や公開書簡は、まるで脚本の転換点のように、物語の流れを変える装置となっている。
2. 「観客」の期待を読み取る演出家
アクティビストは単に企業に圧力をかけるのではなく、市場の空気や投資家の期待を読み取って演出を仕掛ける。たとえば、ESG(環境・社会・ガバナンス)やガバナンス改革といった「時代のテーマ」を取り入れることで、観客の共感を得る演出をおこなっている。
3. 「敵役」を演じることで物語を動かす
アクティビストは、対立構造を演出することで、企業側に「改革の主体性」を演じさせている。つまり、「悪役(ヒール)」、いわゆる「敵役」を引き受けることで、企業が「ヒーロー」として再登場する余地を作っているのだ。
そして、誰しもが関心を抱いているのが、この劇の次の幕は果たしてどんな展開になるのか、ということだ。この「市場の演出家」が次にどんな脚本を仕掛けてくるのか・・・以下に具体的な展開を推察する。
ポイントは4つだ。
1.「敗北」ではなく「布石」としての27%
一見否決されたように見える株主提案も、3割近い賛成票は「無視できない対抗勢力」の証だ。特に、日本市場では政策保有株が多く、20%台後半の賛成率は実質的な影響力の可視化とされ、今後、効力を発揮する布石となるだろう。
2. 水面下での「エンゲージメント」強化
ダルトンはこの数字を武器に、他の機関投資家との対話(エンゲージメント)を加速。来年の株主総会に向けて、「今年は様子見だった投資家」を味方に引き込む戦略が始まっている。これは、FMHだけでなく、現在すでに江崎グリコや文化シヤッターなどに対して、資本効率の改善やガバナンス強化を求める提案をおこない、否決された後も対話を継続していることからも予測できる。
3.「1年の執行猶予」というプレッシャー
FMHの現経営陣は、来年までに目に見える成果を出さなければ、次は〝本当に〟交代の流れが強まる。つまり、今回の否決は「勝利」ではなく、「1年の猶予付き警告」だったとも言える。
4. 物語の「次章」は、より洗練された演出で
ESG、ジェンダー、透明性といった〝観客が共鳴しやすい〟テーマを軸に、企業の「倫理的演出」の不在を突いてくる可能性が高いと私は見ている。
以上のように、次の脚本では、より具体的な経営課題の指摘や、社会的共感を得るストーリーテリングが仕掛けられるだろう。ダルトンというアクティビストは、単なる「物言う株主」ではなく、市場という劇場で「物語のターニングポイント(転換点)」を演出する存在だ。その意味で、今回の27%は単なる「プロローグ」であり、次の脚本はすでに書き始められていると言っていい。
舞台は整った。次の演出は、「観客の心をいかに動かすか」ということだ。

「TBS NEWS DIG」より

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