【おススメ映画】ドキュメンタリー映画『おまえの親になったるで』(北岸良枝監督)が描く刑務所出所後の更生の難しさ

なかなかいい映画を見た。2024年6月に公開されたドキュメンタリー映画『おまえの親になったるで』だ。BSテレ東でノンCMで放送されていたので、集中して見ることができた。地上波でやっている映画もこういうふうにCM入れないで放送すればいいのにと思った。
監督は、記者としてテレビ大阪のニュース取材などにも携わってきた北岸良枝氏。制作はテレビ大阪というテレ東系の地方局だ。
メインテーマは、妹を殺された犯罪被害者遺族でありながら犯罪者の更生支援を続ける男性が、加害者と被害者の間で揺れながらも更生を支え続ける10年間を追ったヒューマンドキュメンタリー、ということだが、よくできていた。冒頭の「おまえの家族になったる」という言葉でぐっと一気に引き込まれた。
主人公は大阪の建設会社社長の草刈健太郎氏だが、まず彼のキャラがいい。そして心意気が素晴らしい。私がもし草刈氏の立場なら、犯罪者の更生を助けたいとは思わないだろう。ひとつには、草刈氏自身が建設会社を経営しているため、刑務所や少年院を出所した人を受け入れる「受け皿」があるという利点があるが、なかなかできることではない。
そしてこの作品の一番のすごいところは、10年間しっかりと密着し続けているということだ。「長い間継続する」というのはそれだけでも「強み」だ。地上波を含むテレビ局は、「マネタイズ」に腐心しているので、こういった地道なドキュメンタリーに対する理解は得られがたい。しかし、なかでも地方局はこういった良質なドキュメンタリーを生み出している。私は、これが「地方局が生き残る一つの道」だと思っている。
とても素晴らしく意義がある作品だったのだが、あえて言えば、少し「美談」が多かったかなというところか。作品内でも出てくるように、身元引受人になった相手から裏切られることも多くあるだろう。もともとの地上波のドキュメンタリー放送をベースにしているものなので、仕方がない部分もあるとは思うが、その点が残念だった。映画化する際には、そういったいわゆる〝地上波の客が世転びそうな〟美談は減らして、もっとダークな面を見せた方がよかったのではないか。私はその方が好きだ。なぜならば、今回紹介されていたような、草刈氏と出所して身元引受人になってもらった人との温かな交流という〝明の〟部分は実は少ないだろうと思うことと、実は〝暗の〟部分に真実が隠されていると思うからだ。
令和5年版犯罪白書によると、再犯者率は47.9%、再入者率は56.6%。半分以上がまた刑務所や少年院に逆戻りしている。それほど、元犯罪者の更生は難しい。そんな現実をリアルな実例でもっと見たかった。
とはいえ、「力作」であることには変わりはない。もし、皆さんもご覧になる機会があれば見てみてほしい。

「映画.com」より

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