【おススメ映画】ドキュメンタリー映画『ザ・ウォーク 少女アマル、8000キロの旅』~参政党が議席を増やした日に観た「希望」と「排除」の交差点
「日本人ファースト」を掲げ、外国人政策に制度的な抑制を打ち出している参政党が、今回の参議院選挙で議席を大幅に伸ばした。そんな結果が出たその日の今日、偶然にもドキュメンタリー映画『ザ・ウォーク 少女アマル、8000キロの旅』を観ることになった。スクリーンの中の「希望」と、現実の制度が示す「排除」という二つの世界が私の中で静かに交差した。
この映画は、戦争によって家族・教育・日常を奪われた子どもたちの声を伝えるため、ヨーロッパを横断する巨大な操り人形アマルの旅を追ったドキュメンタリーである。アマルはアラビア語で「希望」を意味し、9歳のシリア難民の少女をかたどった身長約3.5メートルの人形だ。2021年に始まったアートプロジェクト「The Walk」は、アマルがシリア国境からヨーロッパ各地を歩きながら、難民の現実を可視化し、世界に問いかける試みである。
現在、世界には1億人以上の難民が存在し、その約4割が18歳未満の子どもたちだと言われている。彼らは住み慣れた家や大切な人、教育を受ける権利を奪われ、貴重な子ども時代を失っている。アマルの旅は、そうした子どもたちの悲しみや願いを象徴するものである。
映画は、モデルとなった9歳の少女アシルの語りと想像を具現化するという手法で進行する。アマルを操作するのも、さまざまな国から難民として集まった人々であり、彼らの独白や記憶が挿入される演出も自然に共感できる。とりわけ印象的だったのは、パレスチナ難民の女性がレバノン出身の男性に故郷の街を模した切り絵を贈るシーン。その切り絵が動き出すという演出は、私が最近注目しているアニメーションとドキュメンタリーを融合させた「アニメーション・ドキュメンタリー」の手法であり、マケドニア出身で31歳のタマラ・コテフスカ監督の繊細な演出力が光る場面だった。
映像美も際立っていた。海辺に立つアマル、荒野にたたずむアマル、山道を歩くアマル─その髪をなびかせながら歩く姿は、映画の終盤には実在する人のように見えてくるから不思議だ。
忘れがたいのは、ある国(※ネタバレ回避のため国名は伏せる)で群衆が十字架を掲げ、「恥を知れ!」とアマルに罵声を浴びせる場面である。宗教的・政治的な背景を超えて、排除の感情がむき出しになる瞬間が記録されており、ドキュメンタリーの真骨頂と感じた。
映画の終盤では、アマルが欧州議会から象徴的な「パスポート」を受け取る場面が描かれる。これは、基本的人権(*人形なのに!)の象徴としての演出であり、制度的な「排除」と対照的な「受容」の可能性を示唆している。一方、実在する少女アシルは、パスポートを持たず、施設で親戚を待ち続けている。人形に与えられた自由と、少女に課された制限─この対比が胸に迫る。
参政党が「日本人ファースト」を掲げ、外国人政策に制度的抑制を打ち出す中で、この映画は「人間としてどう向き合うか」という根源的な問いを私たちに突きつけてくる。制度が「線引き」をする一方で、アマルの旅はその線を越えて歩き続ける。選挙結果と映画が同時に現れたこのタイミングは、私に「誰を受け入れ、誰を拒むのか」を静かに問い直す機会を与えてくれたように思う。
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