【おススメ映画】白石和彌監督『十一人の賊軍』をDolbyAtmosで観てきた~今年NO.1の痛快時代劇
最近、時代劇づいている白石和彌監督。以前の『碁盤斬り』もなかなか見ごたえのある時代劇だったが、今回の『十一人の賊軍』も楽しみにしていた。編集を担当した加藤ひとみ氏からも「なかなかおもしろくできた」と自信のほどを聞いていたということもあるが、山田孝之氏がメインキャラをやること、玉木宏氏がなかなか癖のある役で出ているということがあるからだ。山田氏はドラマ『破獄』のときの演技と演技への向き合い方に感服している。玉木氏は私の大好きな俳優で、「品」のなかに「多様な顔」を持ち合わせていているというなかなかいない俳優だ。このブログでもお伝えしているように多くの作品でご一緒した。
そしてこの映画は、日本ではまだ珍しいDolbyAtmosという音響システムを使っているということで、朝日新聞の記者の方々との懇親会に合わせて、109シネマズ新宿プレミアム新宿に出かけて行った。DolbyAtmosの説明は以下である。
映像に合わせて移動するサウンドが、ダイナミックな動きの効果を創造します。豊かで鮮明な次世代音響技術は、まるで映像の中に入り込んだかのような衝撃と、パワフルかつドラマチックなリスニング体験を提供します。
だが、その値段に驚いた。通常の値段が4,500円!Sクラスは6,500円もする!!109シネマズ新宿プレミアム新宿はあの坂本龍一氏が音響監修をしているらしい。まずエントランスから違う。高級ホテルのような外観、ビジネスラウンジのような落ち着いた空間は、この値段なら当たり前か……。値段のせいか、観客は私一人、貸し切り状態だった。
そして肝心の映画だが、一言で言って「楽しませてもらった」。今年NO.1の「痛快度」を誇ると言っても過言ではない。だが、正直DolbyAtmosでなくてもいいかな……。爆弾が爆発する音でまずはぶったまげてしまった。あんなに大音量じゃなくてもいいだろう。パワフルすぎる……でも、よく考えると「爆弾が爆発したら驚く」わけだから、これで使い方としては正しいのかも。確かに「没入感」はあるが、逆に私には映像より音が気になってしまった。「映像を楽しみたいのか、音を楽しみたいのか」や、作品によって選択すればいいのではないかと思った。繰り返しになるが、この作品はDolbyAtmosでなくてもいいと思った(クドい!)。
で、内容だが……とやはりまずはDolbyAtmosのことからどうしても話し始めてしまうのがどうかと思う。白石監督や加藤氏、スタッフの皆さんに失礼だ。『七人の侍』を思わせるような設定も、何となくご都合主義の脚本も、気にならないほどの作品への没入感があった。時間が過ぎるのが早かった。私もテレビをやっていたからわかるが、番組を見てくれた人が「時間が過ぎるのが早かった」と言ってくれるのは嬉しい。それほど、作品に没頭していたということ、飽きさせなかったということだからだ。『十一人の賊軍』にはその力があった。それはやはり白石監督の腕の良さである。
山田氏も期待通りのうまさ、玉木氏はファンとしてはもっと見たかった。もっと〝こずるい〟感じの玉木氏を見たかった。裏でどんでん返しの策を練っているなど、「裏切り」を背負わせたら天下一品の演技をしただろう。
また、これほど〝男くさい〟映画も久々に見た。そういう意味でも評価したい。いまの日本映画は、必ず主役には相手役の「ヒーローやヒロイン」がいる。男ばかりの出演者だと、「女性役を入れて」と言われたりする。「そんなの関係ない!」と振り切ったヒロインが全くいない感じが潔かった。
クライマックスの吊り橋のシーンは圧巻だ。あのシーンは時代劇映画の歴史に残るのではないか。これを見るだけでもこの映画の価値は十分にある。よく撮った。監督が「演者もスタッフも泥まみれになりながら撮った」と語っているように、両者の「プロ根性」がひしひしと伝わってきて、クリエイターOBとしては嬉しくなった。もちろん、白石作品に欠かせない〝容赦ない〟「血ドバシーン」は健在だ。
ここからはあえて、2点些末なことを述べさせていただこう。
1.山田氏演じる政が、官軍に歯向かうことを決めた「インサイティング・インシデント(きっかけ)」が不明瞭だった/知らぬ間に、急に政がやる気になっていた。先ほどまでの「逃げ腰」はどうなったの?とちょっと違和感。
2.「10人」という言葉が繰り返し出てくるので、「タイトルネタバレ」になって残念だった/「十一人の……」の意味をもっとかみしめたかった。これは推測だが、Pが言ったのではないか。「わかりやすくしてくれ」というのは現場側ではなく製作側のPが言いそうなことだ。ちょっともったいなかった。
以上、長々と述べたが、普通の映画の値段を払って見に行くのであれば、十分に元が取れるというか、「絶対に映画館で観ておくべき」作品だ。今日にでも映画館に足を運んでほしい、そうこころからお勧めする。
「映画.com」HPより
高級ホテルのような109シネマズ新宿プレミアム新宿のラウンジ