【おススメ書籍】マーセル・セロー氏著『極北』の圧倒的なリアリティ~引き込まれるのは、村上春樹氏の訳のせいなのか?

以前読んだマーセル・セロー氏の『極北』を読み直してみた。
そして改めて、洋書は訳いかんによって出来が違ってくることを実感。なんといっても村上春樹氏の訳は見事だ。
舞台が極北であることから、その風景を思い浮かべると「荒涼」というイメージが頭のなかに広がるが、村上氏が訳すと何だか温かみが感じられるというのか、〝血が通う〟感じがする。それでいて、この作品の特性でもある「寂寥感」は失っていない。そして、読み込めば読み込むほど、その場にいるかのような臨場感あふれる映像が浮かんでくるのだ。
スケールが大きな話だが、筋はシンプルである。何かの理由で(それは最後まで明かされない)世界が崩壊し、極北に逃げ延びた一握りの人間のひとり「メイクピース」が主人公だ。文明崩壊がテーマで「メイクピース」というのにまず笑ってしまったが、この主人公が実に人間的で魅力的なのである。そして生き残った人々と出会いながら自我を取り戻してゆく話となっている。
そして・・・最初に読んだときは「えっ」って感じのエンディングだったが、今回読み直してみるとさまざまな伏線が見事に回収されていいて「お見事」といった感じだった。再読にもかかわらず、後半の3分の一くらいはページをめくる指が止まらなかった。それほど、この『極北』には力強さがある。
ラストから受ける感想は人それぞれだろう。私は、初読の際には「希望」を感じたのだが、今回はその希望のなかに「無情さと無常」があることに気がついた
もちろん、マーセル氏の原本の出来もいいが、村上氏の名訳をかみしめてほしい。そんな本だ。

「Amazon」HPより


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です