【今日のタブチ、昨日のタブチ】温暖化の代償ーマラリアが蔓延していた昔の日本へ逆戻りか?

海外のロケ、特に辺境地帯に出かけるときにはさまざまな大自然の危険に遭遇する。
まずは凶暴で危険な野生動物だ。アマゾン密林の頂点ヒョウ、アジアのデルタ地帯に棲むトラ、北極圏のホッキョクグマなどフィールド撮影には人間を襲ってくる野生動物に注意しなければならない。
魚や虫のように小さくて弱いと思いがちな生きものも油断大敵だ。カンジルというアマゾン川に棲む魚は、人間の穴という穴から体内に入り込む。引き抜こうと思っても、鱗が返しになっていて引き抜けない。どんどんと体内に入り、内臓を食いつくした後にやっと外に出てくる。ツェーツェーバエと言われる大型のアブのような蠅に刺されると、どんなことをしていても眠ってしまう症状が出る。そして病状が進行すると髄膜脳炎を起こし、最終的には昏睡状態に陥って死に至ることから「アフリカ睡眠病」と呼ばれている。
だが、一番怖いのは「感染症」などの病気だ
アジアやアマゾンなどの熱帯雨林、アフリカなどの熱帯地方に蔓延しているマラリア。2022年12月に公表されたWHOの報告によると、2021年の1年間に約2億4700万人が感染し、推計61万9,000人が死亡している。特にアフリカ大陸においてはこのマラリアによって経済活動が阻害されている。なぜかと言うと、マラリアに罹ると倦怠感がすごい。何もやる気がなくなる。熱帯熱マラリアは、発熱後5日までに治療が開始されないと50%の致死率、発熱後10日を経過すると致死率100%となる。

マラリア?そんなの海外に行かなきゃ大丈夫なんでしょ?と思っている皆さん。その考えは甘い。
近年の地球の温暖化によって日本にもマラリアが上陸すると言われているからだ。
実際、日本でも昔はマラリアが流行していた。『源氏物語』の光源氏の描写にはマラリアらしき病気に悩まされていたことが記されている。平清盛もマラリアで命を落としたと言われている。明治以降でも北海道に駐屯した屯田兵とその家族の20%近くが感染していたと伝えられ、本州だけでも琵琶湖周辺や愛知などに土着マラリアの記録が残っている。
マラリアはマラリア原虫によって引き起こされる感染症で、エイズ、結核と併せて「三大感染症」と呼ばれている。マラリア原虫はハマダラカという羽根から身体にかけてがまだら模様になった蚊によって媒介される。この蚊が人を刺すと、その傷口から血液に原虫が入り込む。この原虫は結構頭がよく、人間の身体に潜んでいてその人の身体が弱ったときに出てきて身体を痛めつける。その時代時代で隠れる場所を変えていて、いまは肝臓に潜む。
マラリアを予防するためには「マラロン」「メファキン」などの抗マラリア薬を飲むが、実はこれは予防薬ではない。かしこいマラリア原虫は常に進化しているため、薬の開発が追いついていない。「マラロン」や「メファキン」はあくまでも治療薬だ。だからとても強く、副作用も強烈だ。特に、原虫が潜んでいる肝臓を傷めつける。いつも海外取材の際にマラリア汚染地域に向かうときには、以上のようなことをわかったうえで、最善の対処をしながら撮影をしなければならない。そのストレスと身体的負担は大きい。
私はマラリアに罹ったことはないが、これも単に「運がよかった」だけだ。熱帯雨林やアマゾンで何度もハマダラカに刺されたことがある。ハマダラカはお尻をあげて血を吸うのが特徴だ。だからすぐわかる。「はっ」と思って腕を見るとお尻をあげて血を吸っている蚊がいたときのショックは何ものに例えられない。その後、自分は「マラリアに感染したのではないか」と不安にさいなまれながら約2週間の潜伏期間を過ごすことになるからだ。実際に一緒に行った出演者がマラリアに感染したこともある。運がよかっただけで、その危険性は充分にあった。
そんな恐ろしいマラリアはなぜ、日本から撲滅されたのか。
日本では水田に生息していたハマダラカが水田の環境や稲作法の変化により減少したことが理由ではないかとも言われているが、もちろん第一には医療の発達や治療の成果がある。だが、本当の理由は「日本の四季」にある。
ハマダラカは寒い冬を越冬できない。だから、日本でも四季がはっきりしていて冬が寒かった時代には、マラリアは発生しなかった。しかし、温暖化によって季節の差がなくなってくるとそういうわけにはいかなくなる。

これだけグローバリゼーションが進んだ現代社会だ。「ハマダラカの上陸⇒越冬=マラリアの蔓延」という図式が現実になる日は近いのかもしれない。

「朝日新聞GLOBE+」より
「朝日新聞GLOBE+」より

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です