【今日のタブチ】「ホームタウン」事業と“誤解”の波紋──未来のために、子どもたちのために、私たちはアフリカからの移民を受け入れるべきなのか

アフリカ諸国と国内の4つの市の人的交流を促す国際協力機構(JICA)の「ホームタウン」事業を巡って、「移民の受け入れにつながる」との誤解がSNS上で拡散し、波紋を広げている。
政府は「事実ではない」(林芳正官房長官)と否定し、各自治体も火消しに追われた。木更津市の渡辺芳邦市長は8月26日の定例記者会見で「移民が増えるといった誤情報に基づく不安の電話が鳴りやまない」として、改めて「移民受け入れの事実はない」と理解を求めた。
事の発端はこうだ。
JICAは、8月21日、横浜市で開かれた第9回アフリカ開発会議(TICAD9)で、山形県長井市をタンザニア、千葉県木更津市をナイジェリア、新潟県三条市をガーナ、愛媛県今治市をモザンビークの「ホームタウン」にそれぞれ認定した。「アフリカの課題解決と日本の地方活性化への貢献」が目的である。60年以上アフリカで培ってきたJICAの知見を踏まえ、人材交流や連携イベントの開催支援などを通じ各市の国際交流を後押しする目的だった。
これに関し、ナイジェリア政府は「移住や就労を望む若者向けの特別ビザ(査証)を日本政府が発行する」などと発表し、英BBCやアフリカの現地紙などもこうした「誤情報」を報道したため、SNS上で懸念の声があふれ、4市に抗議が殺到したというわけだ。
林長官は記者会見で「移民の受け入れ促進や、相手国への特別な査証の発給は想定していない」と説明。JICAも現地の報道などに関し「長井市がタンザニアの国の一部になると誤解を与えるような記載、特別な査証の発給等の記載はいずれも事実に反する」と表明した。4市はそれぞれのウェブサイトに「移住や移民の受け入れにつながるような取り組みではない」などと掲載し、誤解の払拭に努めた。その結果、同日、ナイジェリアは大統領府ホームページ上の記載を修正した。
これらの経緯を見てみると、ナイジェリアの「勇み足」だと思える。だが、果たして本当にそうなのか。常日頃から、報道や情報を疑って観る傾向がある私は、そう感じた。
確かに、ナイジェリア政府の発表は事実誤認を含んでいた。だが、その背景には言語の壁、制度理解の差、そして「ホームタウン」という言葉の曖昧さがある。英語圏では “dedicated city” や “host town” といった表現が、しばしば移住や特別待遇と結びついて解釈されることがある。報道機関がその文脈を補足せずに報じれば、誤解は加速する。
SNSの拡散力は、感情的反応を増幅する。「移民」という言葉が持つイメージは、現代日本において依然としてセンシティブだ。その不安に火をつけたのは、情報の不足と説明の不在だった。JICAや自治体が、事業の趣旨を丁寧に伝える努力を怠っていたとは言えないが、住民との対話の場が十分に設けられていたかと問われれば、疑問が残る。
国連の人口予測によれば、2100年には世界人口の約40%がアフリカ出身者になるとされている。2054年時点でも、世界の4人に1人がアフリカ人となる見込みだ。ナイジェリア、タンザニア、エチオピアなどは、若年層の人口が急増しており、いわゆる「人口ボーナス」による経済成長の可能性を秘めている。
この現実を前にして、日本がアフリカとの連携を深めることは、もはや選択肢ではなく必然である。資源、文化、人材──アフリカは多様な可能性を持つ大陸だ。日本の地方自治体が人口減少と高齢化に直面する中、国際交流は地域の未来を拓く鍵となる。
「移民政策」への懸念が、国際交流の芽を摘んでしまうとすれば、それはあまりに惜しい。JICAの「ホームタウン」事業は、移民の受け入れではなく、文化と知恵の交換を目的としたものだ。誤解を恐れるあまり、交流そのものを拒むのではなく、正しい理解と対話を通じて共創の道を探るべきだ。
また自治体は、住民との対話を重ね、丁寧な説明を繰り返し、情報発信の透明性を高める必要がある。そして私たち一人ひとりも、報道やSNSの情報を鵜呑みにせず、背景を読み解く力を養うべきだ。それこそまさにいま必要な「メディアリテラシー」ではないか。
今回の件では、「火消し」に躍起になるあまり、自治体や政府が即座に否定と謝罪に走ったことに、私は翁懸念と、言いようのない残念さを感じた。この記事で述べてきた事件の背景や構造的な誤解の可能性、そしてアフリカとの未来志向の連携の意義について、住民や国民に丁寧に説明するという「手間」を厭っているように見えてならないからだ。誤解を恐れて沈黙するのではなく、誤解を解くために語ること──それこそが、公共の言葉に求められる責任ではないか
「誤解」は恐れから生まれる。だが、恐れを乗り越えた先にこそ、未来がある。アフリカとの連携は、日本の地方が世界とつながるための扉であり、その扉を開く鍵は、正しい理解と対話に他ならない。

「ANNnewsCH」より

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