【今日のタブチ】「安全保障関連法」成立から10年──防衛産業の《国有化》構想が孕む「危険性」を教育の場に問う
2025年9月19日。安倍晋三政権が安全保障関連法を強行採決してから、ちょうど10年の節目を迎えた今日、東京新聞の一面に掲載された報道が目に留まった。
「国内の防衛産業を支えるため、工場などの生産基盤を国有化し、民間に運営管理を委託する案が現政権内で浮上している」
この《国有化》構想は、単なる政策論では済まされない。教育の現場から、この“危険性”をどう問うべきか──。
防衛政策の技術的な話に見えるが、実は国家と産業の関係性が変質する兆しと危険性を孕んでいる。教育・倫理・歴史の視点から重大な問いを投げかける。
思い起こされるのは、1938年に施行された国家総動員法だ。これは戦争遂行のために民間の人的・物的資源を国家が統制する枠組みを作った法律であり、三菱重工や川崎重工などの民間企業は、戦闘機や艦船、兵器の製造を担うことで事実上の“準国営”化が進んだ。企業の経済的自由は制限され、国家の軍事戦略に従属。技術革新は軍事目的に偏重し、倫理的制御を失っていった。産業と軍部の癒着が進み、戦争遂行の加速装置となったこの歴史は、国家による生産基盤の掌握が民主的統制を弱める危険性を示している。
現在の三菱重工は、防衛・宇宙分野で国家戦略企業としての役割を強めている。仮に国有化されれば、経営判断は市場や株主ではなく政府の安全保障政策に従属し、技術開発は民需とのバランスを失い、軍事技術への偏重が進むだろう。企業の透明性は政府の機密性に覆われ、国際関係においても政治的メッセージを帯びるようになる。こうした変化は、「産業の軍事化」への道を開きかねない。
近年、日本は防衛予算を過去最大規模に増額し、武器輸出の規制緩和を進めている。しかし、これが近隣諸国への抑止力として機能しているかは疑問だ。中国は台湾海峡や南シナ海での軍事的圧力を強めている。韓国やASEAN諸国からは、日本の軍事強化に対する懸念の声もある。武器輸出は第三国への展開が進んでいるが、外交的抑止よりも経済的利益が優先されている傾向が見えるのだ。つまり、武器生産の強化は「抑止力」という名目のもとで進められているが、実際には地域の緊張を高める要因にもなっている。
政権による今回の構想が孕む危険性は、いくつかの層(ステージ)に分けて考える必要がある。まず、民主的統制の希薄化。国有化によって、産業政策が国民の監視から遠ざかる。次に、倫理的判断の空洞化。軍事技術開発が経済合理性や政治的要請に従属し、教育・倫理の視点が後退する。そして、地域の不安定化。武器生産強化が外交的信頼よりも軍事的緊張を招く。最後に、負の歴史の反復。戦前の国家と産業の一体化が、形を変えて再現される可能性がある。
こうした報道に対して、教育現場はどう応答すべきか。歴史教育では「国家と産業の関係性」を批判的に検証する視点を育てる必要がある。倫理教育では「技術と倫理」「安全保障と人権」の交差点を問うべきだ。そして、メディア教育では「報道の文脈と構造」を読み解く力を養うことが求められる。
教育は、国家の方向性をただ受け入れる場ではなく、問い直す場であるべきだ。
「朝日新聞デジタル」より