【今日のタブチ】ローマ教皇フランシスコやダライ・ラマ14世が目指した「宗教多元主義」~このVUCAの時代を生き抜くヒント
ローマ教皇フランシスコの葬儀がおこなわれた。
コラムニスト、師岡カリーマ・エルサムニー氏によると、教皇はほぼ毎日戦禍にあるガザのカトリック教会に電話していた。通話の動画も投稿され、残っている。「今日は何を食べましたか?」という何気ない問いかけで人々のこころを癒したというが、感嘆したのは、その際に必ず「アッサラーム・アライクム!」という言葉から始めたということだ。ご存じのように「アッサラーム アライクム」はアラビア語で「あなたに平和がありますように」という意味であり、イスラム教徒がよく使う「こんにちは」に相当する挨拶だ。通常は、キリスト教徒は使わない。
こういったエピソードからも、教皇が「宗教多元主義」をいかに貫いていたかがよくわかる。
「宗教多元主義」とは、イギリスの宗教哲学者ジョン・ヒックが唱えたもので、さまざまな宗教が同じ社会に存在することを認め、お互いの価値を認めながら共存していこうとする宗教的態度や思想である。
教皇は、宗教の多様性を神が望んだものとしてその価値を高く評価し、宗教的な対立や暴力を厳しく批判し、宗教間の平和を願った。カトリック教会の指導者として、異なる宗教の指導者たちと積極的に対話を行い、互いの理解を深める努力を続けてきた。
同じく、ダライ・ラマ14世も宗教多元主義を提唱し、数えきれないほどの異なる宗教間対話をおこなっている。
「宗教多元主義」には、現代のVUCAの(予測困難で複雑な)時代を生き抜くヒントが隠されている。本学・桜美林大学リベラル・アーツ学群准教授の長谷川(間瀬)恵美氏はこの「宗教多元主義」の研究者であるが、その著書『深い河の流れー宗教多元主義への道』の考察は、とても深い。
VUCAの社会のなかでは、従来の一元的な考え方や固定観念では課題解決が難しい場合がある。そんなときに、多様性と共存を理解する重要な考え方となるのが「宗教多元主義」だ。そのキーワードは以下の3つである。
1.多様性の受容
2.対話の重要性
3.柔軟性と適応性
VUCAの時代において宗教多元主義が提供する「ヒント」とは、多様な価値観や考え方を受け入れ、そこから新たな調和や創造を生み出す知恵なのだ。
4th World Day of Prayer for Peace, Assisi (Italy), Oct 27, 2011 SONY DSC
ⓒStephan Kölliker