【今日のタブチ】世界陸上・ボンフィム選手の指輪が教えてくれた“落とし物力”――スマホと指輪、日本の《奇跡》

世界陸上東京大会の男子20キロ競歩で金メダルを獲得したカイオ・ボンフィム選手(34)が、競技中に結婚指輪を紛失した。3キロ地点で気づいたが、止まるわけにはいかない。彼は「金メダルを取れば妻も怒らないと思った」と語り、観客に「指輪を探してください」と呼びかけながら歩き続けた。
そして翌日、指輪は見つかった。しかも大阪で。なぜ東京で落とした指輪が大阪に?
報道は詳細を明かしていないが、SNSで拡散された情報が拾得者の目に留まり、何らかのルートで届けられた可能性がある。指輪の旅路は謎に包まれているが、確かなのは「戻ってきた」という事実だ。
実は、日本ではこうした“奇跡”が日常的に起きている。警視庁の統計によれば、2024年の遺失物の返還率は驚異的だ。財布は93%、携帯電話は61%、現金ですら半分以上が持ち主の元に戻っている。海外と比較するとその差は歴然で、ある実験では東京での返還率が約90%だったのに対し、ニューヨークではわずか6%だったという。
この“落とし物力”は、日本の交番システム倫理観、そして「届ける文化」に支えられている。誰かが落としたものを見つけたら、それを届けるのが当たり前。見返りを求めない、ただの善意。それが社会の空気として根付いている。
先日、私の友人が酔って終電を乗り過ごし、スマホを座席に置き忘れた。翌日、スマホがないと困るので友人は早速新しいスマホを購入した。「スマホなんてどうせ、出てこないだろう。スマホを届ける人なんていない」と思い込んでいた。しかし、数日たって駅の遺失物センターから、「スマホが無傷で保管されている」という連絡があった。今回のボンフィム氏の話を聞いてそんな友人のエピソードを思い出した。
指輪が戻ってきたことは、単なる美談ではない。それは「人を信じることができる社会」の証だ。競技の勝敗以上に、こうしたエピソードが国際的な信頼を育てる。ボンフィム選手が「日本人を信じる」と言った言葉は、金メダルと同じくらい重い。
落とし物が戻る国。それは、誰かの善意が、見知らぬ誰かの人生をそっと支える国だ。そしてその善意は、指輪にもスマホにも、そして私たちの日常にも、静かに息づいている。

「サンスポ」オンラインより

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