【今日のタブチ】公共空間にアダルトビデオ車両は不適切⁉――「ピンク盆踊り」で中野区長が謝罪する意図は何か
東京都中野区の区立公園で開催された「ピンク盆踊り」というイベントが、思わぬ波紋を呼んでいる。問題視されたのは、アダルトビデオの撮影に使われる車両、いわゆる“マジックミラー号”が展示されていたことだ。住民から多数の苦情が寄せられ、酒井直人区長が「不適切だった」と記者会見を開く事態にまで発展した。
何が「不適切」だったのか。無許可で設置されたことか、それとも公園という公共空間で行われたことか。あるいは、小さな子どもも訪れる場であることから「公序良俗に反する」とされた点なのか。
だが、ここで立ち止まって考えたい。AVというジャンルに対する根深い偏見が、「公序良俗」という言葉の陰に隠れていないだろうか。展示された車両で性的行為がおこなわれたわけではない。演出も、あくまで“遊び心”として企画されたものだった。「ピンク盆踊り」は、中野駅前大盆踊り大会の前夜祭として2025年8月1日に開催されたもので、主催は同大会実行委員会。チラシには「可愛らしさや遊び心」「ほんのりとした色気」をテーマに掲げ、恋人や家族連れも歓迎する趣旨が記されていた。 実際には、大手アダルトメーカー「SODクリエイト」が協力し、AV撮影車両「マジックミラー号」の展示のほかにも、セクシー女優による浴衣姿のパフォーマンス、「イチモツ音頭」などの演目が行われた。SNSでは「ピンク尽くしの演出が盛況だった」との投稿も見られたが、公共空間での性的表現に対しては「子どもに見せられない」「気持ち悪い」といった批判も噴出した。
イベント名が「ピンク盆踊り」である以上、ある程度の演出意図は周知されていたはずだ。それを「知らなかった」とする行政の姿勢にも、違和感を覚えるのは私だけだろうか。実際、酒井直人区長は9月8日の記者会見で「書類審査の中に情報がなかったことが大変遺憾。もし分かっていれば許可は出ていなかった」と述べている。つまり、区はイベントの詳細を把握していなかったという立場を取っている。区の公園課担当者も「内容に関して記載がなかったので、区も指定管理者も知らなかったということになります」と説明しており、後援名義を出したにもかかわらず、イベントの演出内容は事前に共有されていなかったと主張している。さらに、区と指定管理者が主催者に送付した抗議文には「このような内容が含まれていることを分かっていれば使用許可を出すことはありませんでした」と明記している。
しかし、もし内容を詳細に確認したいのであれば、「ピンク盆踊り」というイベントタイトルを見た瞬間にそう思うはずだ。問題化したあとになって、付け加えたような理由に思えてしまう。
公共空間とは誰のものか。子どもを理由にした規制は、果たして誰のためのものか。表現の自由と公共性の境界線は、誰がどこで引くのか。
今回の出来事は、単なるイベントの不手際ではなく、社会的な価値観の衝突を浮き彫りにしている。AV業界への差別や偏見が、行政の対応や住民の反応にどのように影響しているのか。その問いを、私たちは見過ごしてはならない。
「東京新聞オンライン」より