【今日のタブチ】増え続ける《ネット中傷》と、“マンションを売ってまで”「誹謗中傷」と闘う人物の覚悟

SNSなどインターネットで誹謗中傷された人が、投稿者特定のため東京地裁に「発信者情報開示命令」を申し立てる件数が、2025年9月末時点で約6,900件に達した。昨年の6,274件をすでに上回り、このままでは年末には8,700件を超える見込みだという。
この手続きは、被害者が裁判所に申し立てることで、まずSNS運営会社(コンテンツプロバイダー)からIPアドレスなどの情報を開示してもらい、次に通信事業者(アクセスプロバイダー)から投稿者の氏名や住所を特定するという流れだ。2022年の法改正以降、東京地裁では「スマートフォーマット」や「シームレス審理」など、発信者情報開示命令の手続きに特化した制度的工夫が導入され、手続きの迅速化が進んでいる。
「スマートフォーマット」は、発信者情報開示命令の申立書をチェック形式で記入できる定型書式で、記載漏れや誤記を防ぎ、裁判所の審査も効率化される。
一方「シームレス審理」は、Teamsなどのオンラインツールを活用し、期日を設けずに書面とオンラインで審理を進める方式で、期日調整の手間を省き、迅速な決定が可能になる。
これらは、発信者情報開示命令の申立件数が急増する中で、東京地裁がこの手続きに特化して設計・導入した運用改善策であり、他の民事事件には一般化されていない。これらの工夫により、発信者情報開示命令の手続きは以前よりも格段にスピードアップしている。
件数が増えている背景には、SNS利用の拡大と匿名性の悪用、被害者の法的知識向上、そして東京地裁による申立書のチェック方式導入などがある。制度が整ってきたことは確かだが、それでも制度だけでは救えない人がいる。

そんな中、誹謗中傷監視の最前線で活動する一人の人物がいる。森山史海氏である。森山氏は、2005年からネット誹謗中傷の抑止活動をボランティアで始め、現在はNPO法人「ビリオンビー」の理事長として、誹謗中傷の解決や教育などをおこなっている。
これまでに対応してきた事例は1,500件を超え、その多くが削除や謝罪、再発防止につながっているという。この数字は、制度では救えない人々に寄り添い続けてきた“現場の力”を物語っている。
驚くべきはその覚悟だ。森山氏はこの活動の資金を捻出するために、自宅マンションを売却したという。それは、生活の安定を手放すという決断でもあり、誰かの“明日”を守るために、自分の“今日”を差し出すような行為だった。支援のために資金を集める方法はいくつもあるはずだが、森山氏はまず「自分の身を切る」ことを選んだのだ。その選択には、誰かに頼るのではなく、自分の責任としてこの問題に向き合うという強い意志が込められている。
「バカにされ続け、お金儲けのことも考えず、自分のお金をつぎこんで、ただただ本気でネットの誹謗中傷がなくなることだけを考え、今も本気で戦い抜いている」
森山氏の活動は、違法投稿の対応だけでなく、被害者の信用回復支援や心のケアにまで及ぶ。制度の隙間に落ちてしまう人々を拾い上げているのだ。
ネット中傷は、制度と人の支援の両面から向き合わなければならない問題である。森山氏のような存在がいることを、もっと多くの人に知ってほしい。

「総務省」HPより

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です