【今日のタブチ】愛知県豊明市の「スマホ条例」は“余計なお世話”か――《促し》の先に待ち受けている《強制》
愛知県豊明市が全国で初めて「スマートフォン等の適正使用の推進に関する条例」を可決した。内容は、仕事や勉強を除いた余暇時間において、スマホの使用を「1日2時間以内」を目安とするよう市民に促すもの。施行は10月1日からで、罰則はない。市長は「一律ではなく目安」と強調し、家庭ごとのルール作りを促している。小学生以下は午後9時まで、中学生以上は午後10時までの使用を控えるよう求める文言も盛り込まれている。
この条例に対する市民の反応は賛否両論だ。報道によれば、反対意見が7割を超えるという声もある。反対の理由としては、「行政が個人の生活に口を出すべきではない」という精神的反発、「メディア・コントロールではないか」という社会的懸念、「罰則もないのに意味があるのか」という実効性への疑問などが挙げられる。一方で賛成派は、「子どもの睡眠不足やスマホ依存への対策として必要」と評価している。そもそも条例とは何か。今回の条例は「理念条例」と呼ばれるもので、法的拘束力や罰則はない。市民の自由と多様性を尊重する付帯決議も可決されており、「促す」にとどまる内容だ。つまり、「守らなければならない」ではなく、「見直してみませんか?」という提案に近い。だからこそ、目くじらを立てる必要はないと私は考える。
もちろん、「そんな個人的なことに行政に口を出されたくない」という精神的な理由や、「行政によるメディア・コントロールではないか!」という社会的な批判もあるだろう。だが、逆にこう考えたほうがいいのではないか。行政が条例で「気をつけましょう」と注意喚起をしなければならないほどの状況であるということだ。
脳科学者の茂木健一郎氏は、2024年のアメリカの健康データ管理会社ハーモニーヘルスケアによる調査結果を自著で紹介している。平均的なアメリカ人は、毎日5時間16分を携帯電話を見ることに費やしており、スクリーンタイムは年々増加傾向にある。2023年の調査と比べて1年で14%の増加だ。1日5時間なら、10年のうち2年以上も携帯電話を見ていることになる!茂木氏は、スマホの小さな画面をじっと見つめていることが特に子供にとって脳に想像以上の疲労をもたらし、発達にも影響があると警告している。
海外の例もある。ニュージーランドでは、スマホの長時間使用が若年層の精神的健康や犯罪リスクに関係しているとの指摘があり、学校や家庭でのルール作りが進められている。条例ではなくガイドラインや教育的介入が中心だが、背景には同様の懸念がある。
他にも、フランスでは2018年から小中学校でのスマホ使用を全面禁止する法律が施行されており、校庭でも使用不可とされている。オーストラリアでは2024年に16歳未満のSNS利用を禁止する法案が成立し、EUではアルゴリズムによる中毒性の高い機能の制限や年齢確認の義務化が検討されている。アメリカの一部州では14歳未満のSNSアカウント作成を禁止する法律も導入され、プラットフォーム側に罰則が科される可能性もある。
こうした事例を見ても、スマホやSNSの使用制限は「個人の自由 vs 公共の安全・教育的配慮」という構図で、世界中が模索していることがわかる。
「行政がこんなことまで言うのか」と思うかもしれない。けれど、逆に考えれば、行政が条例という形で注意喚起をしなければならないほど、スマホ依存が深刻化しているということではないだろうか。
この問いに私たちが向き合わず、答えを見つけられないままでいると、海外のように法律で使用を禁じるような事態に進まざるを得なくなるかもしれない。そうならないためにも、今はまだ「目安」という穏やかな形で示されているこの条例を、警告として受け止めるべきではないだろうか。
「Yahoo!ニュース」より