【今日のタブチ】懺悔と再演─ハッピーセット騒動に見る「おまけ至上主義」の病理と〈食べる〉倫理
今日は、懺悔から始めたい。
小学生の頃、私は仮面ライダースナックに夢中だった。カルビーが出していたスナック菓子を買うと、駄菓子屋で仮面ライダーカードが一枚もらえるというものだ。袋に入ったカードを引く瞬間の高揚感。中身を見ては一喜一憂し、「当たり」が出れば専用アルバムがもらえる。私はそのアルバムが欲しくてたまらなかった。
ある日、両親にこう言った。「毎日、おやつは仮面ライダースナックでいい」。そして毎日買っては、食べきれないスナックをどぶに捨てていた。カードだけが目的だった。随分ひどいことをしたものだと、今は反省している。
この行為は、当時社会問題にもなった。実際にスナックを捨ててカードだけを取る子どもたちが続出し、「ライダースナック投棄事件」として新聞にも報道された。駄菓子屋の裏に積まれたスナックの山は、子どもたちの欲望と倫理の未成熟を象徴していた。
その記憶が、今朝のニュースと重なった。マクドナルドのハッピーセットにポケモンカードが付くキャンペーン。発売初日、全国の店舗に長蛇の列。カード目当ての大量購入。そして、店の周辺には食べられずに捨てられたハンバーガーやポテトが散乱していた。
今回の騒動の本質は、すべてが「大人の仕業」であるという点にある。転売目的の買い占めが横行し、フリマサイトには1枚数千円〜数万円で出品されたカードが溢れた。メルカリやeBayでは、海外からの転売も確認されている。推計で2万〜3万食分のハッピーセットが廃棄され、CO₂排出量は25〜37.5トンに及ぶとも言われている。
そして何より、本来のターゲットである子どもたちが買えず、親子で涙をのむ光景が報道された。ハッピーセットは「食事+遊び+学び」の体験を提供するものだったはずなのに、カードが主役となり、食事や親子の時間が脇役に追いやられている。
この構造は、50年前の仮面ライダースナックと何も変わっていない。ただ違うのは、ネット社会の加速装置があることだ。SNSとフリマアプリが、地域内で完結していた現象を全国規模・国際規模に拡張した。中国のSNSでは、日本のポケモンカードを代理購入し、食品は廃棄する「代購サービス」まで登場している。
ネットは、欲望を可視化し、拡散し、加速させる。かつては駄菓子屋の裏でひっそりと行われていた「愚行」が、今や世界中に晒される。
私は、かつてスナックを捨てた子どもだった。そして今、同じ構造が再演されているのを目撃している。これは「懺悔の継承」だ。本体よりも付属物に価値を見出す消費行動は、昭和から令和まで続く日本的欲望の系譜でもある。カードを得るために商品を買う行為が、もはや儀式と化している。その中で「食べる」という行為が意味を失っている。
企業の販売戦略だけでなく、消費者の選択にも倫理が問われている。転売品を買わないという意思表示が、子どもたちの「ハッピー」を守る第一歩になるのかもしれない。
あのとき、どぶにスナックを捨てた「カシャ、カシャ」という空しい音が、今も耳に残っている気がする。今回の騒動は、単なる転売問題ではない。それは、私たちが何を食べ、何を捨て、何を残そうとしているのかという、食品ロス、消費行動、子どもと食育に関する「食」の問いそのものである。
そしてそれは、次の世代に何を託すのかという、私たち自身に突きつけられた「未来への選択」でもあるのだ。
「ライブドアニュース」HPより