【今日のタブチ】日産自動車が追浜工場を閉鎖~企業は誰のためにあるのか―日産2万人リストラと「入らなかった会社」の40年前の記憶

経営再建中の日産自動車が、追浜工場の生産を2027年度末で終了すると発表した。主力拠点であったこの工場の閉鎖に伴い、車両生産は日産自動車九州に移される。さらに、子会社の日産車体湘南工場も2026年度までに生産を終えるという。
すでに日産は、国内外にある17の工場を10に集約し、グループ従業員の約15%、2万人の削減を柱とする再建計画を公表している。
確かに、6,709億円の赤字という危機的状況において、固定費削減は経営的には“合理的”に映るのだろう。しかし私は、今回の人員整理を「社員への裏切り」と捉えてしまう。
長年会社を支えてきた従業員を、「コスト」として扱う姿勢。それは、信頼という根幹を揺るがす行為ではないか。雇用の影響を軽んじるならば、企業の存在意義そのものが問い直されるべきだろう。
こうしたリストラは、「人間を数字で扱う構造」の象徴にも見える。企業は効率性だけでなく、人間性をいかに守るか―その問いが、いま社会にとって切実に必要なのではないか。
この問題が気になってしかたがないのは、少し感傷的な背景がある。
実は、私は大学卒業時、日産自動車から内定をもらっていた。ゼミやサークルの先輩が後輩を自社に勧誘する「リクルーター制度」が盛んだった頃で、「〇人入れろ」といったノルマがある企業もあったという。当時、私も日産の先輩に誘われた。しかし私は、どうしてもマスコミ業界に進みたかった。だから、その先輩にこう言った。
「宣伝部に配属してくれると確約してくれるなら、入社を考えます」
いま思えば、実に生意気な学生だった。企業という組織のリアルを知らず、ただメディアの世界に惹かれていたのだ。先輩は会社に掛け合ってくれて、「宣伝部配属確約」をもらったが、結果として、私はテレビ東京の内定を得て、日産には入社しなかった。その報告をしに、東銀座にあった日産本社のロビーで先輩に会った。そのとき、彼は机をひっくり返すほどの勢いで激怒した。真剣に向き合ってくださっていたからこその感情だったと思う。
ふと、そんな記憶がよみがえった。
同時に思い出したのが、フジテレビのセミナー―いまでいう「インターンシップ」だろうか。最終面接で鹿内春雄氏(当時のフジサンケイグループ会議議長)との押し問答。そして、健康診断で採血まで済ませていたにもかかわらず、私だけが落とされたという出来事も記憶に刻まれている。
日産もフジテレビも、あの頃はまぎれもなく“一流企業”だった。だが、時代は流れ、企業の姿も変わっていく。栄枯盛衰とは、予測できるものではない
入らなかった会社。選ばれなかった会社。その記憶が、いま日産の人事に触れて甦るとは思ってもみなかった。
企業は誰のためにあるのか――。
それは、過去を振り返ることでしか見えてこない問いなのかもしれない。

「毎日新聞オンライン」より

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