【今日のタブチ】朝刊の《男女》に関する3つの事案が示すもの――「性別」から「個人」へ、社会は今《転換点》にある

今朝の新聞には、「男女」に関する事案が3つ、目立っていた。いずれも異なる文脈で語られているが、共通して「違和感」を覚えずにはいられない内容だった。

ひとつ目は、名古屋市のアパートで26年前に主婦が刺殺された事件。69歳の女性が殺人容疑で逮捕された。女性は「26年間、毎日不安だった。事件に関する新聞も見られなかった」と語ったが、人を殺めたのだから当然だ。「家族や親族に迷惑をかけられず、捕まるのが嫌だった」という言葉には、身勝手さが滲む。
事件の背景には、高校時代に同じ軟式テニス部に所属していた男性への思慕があったという。交際には至らず、20年後のOB会で再会した際、男性が「結婚し、家事も仕事もしながらで大変」と明るく語った5か月後に事件は起きた。女性の心の中にどんな「闇」があったのかは、今後の捜査を待つしかないが、恋愛感情がこじれ、社会との接点を失ったまま年月を重ねた末の犯行だったことは確かだ。

ふたつ目は、夫婦そろって国会議員を務める寺田学衆院議員と寺田静参院議員の話題。静氏はもともと学氏の秘書だったが、現在は2期目の参院議員として活動している。学氏は政界から引退し、子育てや家事を担うことを決断したという。静氏が当初「自分が身を引く」と申し出たが、学氏は「女性議員が少ないなかで、妻の役割は代えが利かない」として、支える側に回った。
この決断は「英断」と呼べる。日本の女性議員の割合は、衆議院で15.7%、参議院で29.6%にとどまっており、世界平均(下院または一院制議会)27.2%、上院27.4%と比べても低い水準だ。OECD諸国の中でも日本は最下位に近く、2025年のジェンダーギャップ指数では政治分野で148か国中125位という結果だった。寺田夫妻のような選択が、女性のキャリア形成や政治参画の促進において、重要なケーススタディとなることを願う。

3つ目は、岩手県の公式HPが炎上した事案婚活支援のために作成された資料に、「女性はスカートかワンピース」「上品で可憐に」「髪はツヤを保ち、パサつきや傷みはきちんとケア」「控えめなメークを意識」などの文言が並び、「ジェンダー役割の押し付け」として批判を浴びた。異性に好感を与える外見や振る舞いに関するアドバイスだったが、学者が問題視するまで気づかなかったというのは、行政の感度の低さを露呈している。
このような「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」が、いまだに公的機関の資料に現れることに驚かされる。性別による役割期待が、無意識のうちに刷り込まれている現状を、私たちはもっと深刻に受け止めるべきだ。

3つの事案を通して見えてくるのは、「男女」という言葉がもはや、現代社会の複雑な人間関係や役割を包みきれないという事実だ。恋愛感情のこじれが殺人に至るほどの抑圧を生み、夫婦の役割分担が社会的な挑戦となり、行政が「女性らしさ」を押し付けることで炎上する。いずれも、「こうあるべき」という性別役割の枠組みが、個人の選択や感情と衝突している私たちは今、「性別」ではなく「個人」を尊重する社会への転換点に立っているのかもしれない。見えない力に抗い、違和感を言語化し、制度や慣習を問い直すこと。それが、次の社会をつくる鍵になる。

「東京新聞デジタル」より

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