【今日のタブチ】本学・桜美林大学のモットー「学而事人」を実践するかのような「不登校生動画甲子園2025」ー映像が育む「語る勇気と力」
今朝の新聞を読んで、心から離れないことがある。
知床で男性を襲った母グマは、人を攻撃したことがない「SH」という識別コードで記録されていたという。専門家によると、登山中の男性が母グマと子グマのちょうど間に入ってしまい、母グマは子グマを守ろうと襲い掛かったとの見方が浮上している。
心が痛い。亡くなった男性にはお気の毒だが、母グマの心中を察すると何とも言いようがない。母グマは必死にわが子を守ろうとしたのだ。事故のようなこの事件は、こういった悲劇が起こらないようにするためにはどうしたらいいかと考え続けることの大切さを教えてくれる。今朝は、耳鼻科に行っても、スーパーで買い物しても、母グマの気持ちが頭から離れない。
そんな折、目に留まったのが「不登校生動画甲子園2025」の記事だった。3回目となる今年のテーマは「不登校で見つけたこと」。全国の中高生たちから432本の応募があったという。
動画の中には、学校に行けなかった日々の中で見つけた「自分の価値」や「家族との絆」、あるいは「社会との新しいつながり」を描いたものが多くどれも胸を打つと記事は伝えていた。どんな映像なのか、見てみたいと思った。
そして調べてみると、ファイナリスト8作品の一覧や紹介は、鈴村結さんのnote記事で詳しくまとめられていることがわかった。
それぞれの作品には、語り手の「不登校で見つけたこと」が静かに、しかし力強く刻まれている。
たとえば、木ノ木きのさんは「絵が大好き」という気持ちを不登校になって見つけたという。未来への不安と現実の恐怖を和らげてくれた絵を描く様子とともに、「不登校になったからこそ見つけられる道がある」と語られていた。透明水彩や色鉛筆で描かれた作品が、映像の中で静かに輝いていた。むとーこーちゃさんの動画は、特に印象に残った。「不登校でいいことはなかった。それでも生きる理由を見つけたい」という真っ直ぐな言葉が、映像の余白とともに深く響いた。他にも、「夢を声にした日」と題して、声優になりたいという思いを初めて言葉にしたしほさんの動画や、3DCGと出会い、映像制作の夢を見つけたsumaさんの作品など、それぞれが語ることで、自分自身と社会との関係を静かに編み直している。
どの作品も、語り手自身が「語る力」を取り戻していく過程そのものが映し出されていて、見る者の心に静かに問いを投げかけてくる。不登校という経験が、語りと映像によって社会的な意味を持ち始める瞬間に、私は深い希望を感じた。
本学・桜美林大学は、「学而事人」をモットーにしている。創立者・清水安三氏が唱えたこの言葉は、「学んだことを、自分のためではなく、人のため、社会のために役立てる」という精神を表している。私のゼミや授業でも、映像制作を通じて得た知識や技術を社会貢献に活かすことを目指している。映像は、ただの表現手段ではない。それは、語りの力を持ち、社会に問いを投げかけ、共感を生み出す装置でもある。
「不登校生動画甲子園2025」は、まさにその力を体現している。不登校という経験を、映像という形で社会に届けることで、当事者自身が語り手となり、社会との新しい関係を築いていく。それは、「学而事人」の精神に通じる、尊い営みだと思う。
母グマの話に心を寄せながら、不登校生の映像に耳を澄ます。どちらも、語りえぬ痛みと、語られるべき思いがある。そして、私たちはそれにどう向き合うかを問われている。自然との関係、人との関係、社会との関係——それらを映像というメディアを通じて再構築する営みは、教育の現場でも、日常の中でも、静かに続いている。
今日のブログは、そんな営みへの敬意と、未来への希望を込めて、締めくくりたい。
写真は2024年の授賞式の様子
「中日新聞オンライン」より