【今日のタブチ】本学・桜美林大学 田淵ゼミ卒業生が照らし出す《知と経験の交差点》――後輩のために「一肌脱ぐ」その心意気に感謝
今日は感謝を込めて、本学・桜美林大学、私の田淵ゼミの卒業生について書きたい。
先週末は、私が所属する芸術文化学群の学祭「桜日向祭(おひな・さい)」だった。その学祭に合わせて、ゼミの卒業生が会いに来てくれた。彼女は朴ヘリンさんという。韓国からの留学生として来日し、卒業後は「日本で映像関係のキャリアを積みたい」と帰国せず、日本で就職した。現在は、CMのプロダクションマネージャーをしている。
事の発端は、来年の3月に卒業する私のゼミ生が、「CM業界に興味があるので、ぜひ先輩の話を聞きたい」と言い出したことだ。それならばと、朴さんに話してみたところ、「いいですよ」と、迷いなく快諾してくれた。
その即答ぶりは潔く、気持ちよかった。私はその姿勢に嬉しくなった。このブログで、テレビ業界に就職した卒業生が「番組のクレジットに名前が載りました」と連絡してくれたことを書いたことがあるが、それに匹敵するほどの喜びだ。
このように、卒業生として巣立っていった若者たちが、次の世代の後輩のために「一肌脱いでくれる」現場に立ち会うことはとても嬉しく、教員冥利に尽きる。
そばで聞いていると、ゼミ生の質問には拙いものもある。しかし、そんな質問にも朴さんは丁寧にわかりやすく答えてくれた。彼女の人柄がにじみ出ていた。終わった後に、感謝の連絡をしたときも、「自分も就活生の時に色々悩んだので、すごく気持ちを共感しながら話しました」と返事をくれた。そして、「今日良い機会をくださってありがとうございます!またぜひ良かったら呼んでください」とまで言ってくれた。
ゼミ生も「実際に働く方からしか聞けないお話を伺うことができ、とても勉強になりました」とお礼のメールをくれた。自分の気持ちを探りながら質問を重ねることで、少しずつ「自分のやりたいこと」が輪郭を持ちはじめている――そんな実感を得たようだった。こうした対話の積み重ねが、進路選択の土台を築いていくのだろう。
朴さんとゼミ生の対話は、単なる「心意気」以上の意味を持っている。というのも、こうした卒業生の関与は、教育機関の持続可能性や社会的価値にも直結する動きだ。
卒業生が在校生に知見や経験を還元することは、個人の善意を超えて、教育の循環を生み出す力になる。実際、卒業生ネットワークの活用は、教育研究の分野でも「学びの共同体」形成の鍵として注目されている。
たとえば実践女子大学では、卒業生をロールモデルとしてキャリア教育に組み込み、初年次から在学生が主体的に進路を考える機会を設けている。大学側は「卒業生の経験が生きた教材となり、学生の社会的視野を広げる」と位置づけており、授業や交流イベントを通じて、卒業生の語りが学生の行動変容を促す仕組みを整えている。
一方、早稲田大学では、株式会社ビズリーチが運営する卒業生訪問ネットワーク「ビズリーチ・キャンパス」と提携し、学生がオンラインで卒業生と面談できる仕組みを構築している。卒業生の学部・ゼミ・経歴などの情報を可視化し、学生が自分の関心に合ったロールモデルとつながることで、キャリア選択の幅が広がる。大学はこの取り組みを「大学×卒業生ネットワーク」のモデルケースと位置づけ、「社会の急速な変化に対応するためには、学生が多様な価値観に触れ、自律的・主体的にキャリアを選択できる環境が必要だ」と明言している。
また、順天堂大学保健看護学部の岡本直子氏は、卒業生支援の研究報告の中で「卒業生との継続的な関係づくりは、大学の教育的責任の一環であり、卒業生の専門的成長と社会適応力を高める」と述べている。
こうした取り組みは、卒業生が単なる“過去の学生”ではなく、教育の循環を担う“次の教育者”として機能する可能性を示している。先輩のリアルな声に触れることで、在校生は業界への理解を深め、進路選択に具体的な手がかりを得る。そして卒業生自身も、後輩との対話を通じて、自らの経験を振り返り、社会との接点を再確認する機会となる。
こうした世代間の連携は、大学という場を単なる「学びの通過点」ではなく、「知と経験の交差点」へと育てていく。朴さんのような存在が、未来を照らしてくれるのだ。
桜美林大学 2024年度 学位授与式の様子