【今日のタブチ】自動車関税交渉の犠牲となった「食」と「防衛」の安全――「取引」か「従属」か、いま見極めるべき外交のリスクと本質
今朝の新聞では、トランプ大統領が日本から輸入する自動車への関税を27.5%から15%に引き下げる大統領令に署名したという報道が一面を飾った。日本の基幹産業である自動車業界にとっては朗報とされ、歓迎ムードが広がっている。だが、本当に“歓迎できる”ことなのか。私は、この関税率軽減の代償があまりにも大きすぎるのではないかと懸念している。
その懸念の根拠は、引き換え条件として提示された米国側の要望の数と質にある。航空機の大量購入、バイオエタノール・大豆・トウモロコシなどの農産物の輸入拡大、天然ガスの調達、半導体の追加購入、そして米国製防衛装備品の数十億ドル規模での増加。これらの要求は、単なる貿易交渉の範疇を超え、日本の食料安全保障や防衛政策にまで深く関わるものである。
なかでも私が最も懸念しているのは、米国産のコメの輸入量を75%も増加させるという点だ。現在、日本はミニマムアクセス(MA)枠内で米国産コメを無税で輸入しているが、今回の合意により約35万トンから約61万トンへと倍近くも急増する見込みだという。
そもそも「ミニマムアクセス(MA)」とは何か。これは1993年のGATT(関税および貿易に関する一般協定)ウルグアイ・ラウンド交渉で、日本が国際的に約束した「最低限のコメ輸入枠」に基づく制度である。国内のコメ市場を守るために、主食用ではなく加工用・飼料用・援助用などに限定して流通させる仕組みだが、近年では一部が主食用として民間流通するケースも増えている。安価な一方で、売買差損による財政負担は年々増加し、2022年度には674億円に達した。消費されずに備蓄され、品質劣化によって“食用不適品”となるコメも少なくない。こんな義務のような輸入が、果たして誰のためになるのか。
こんなことでは、「国内の米価高騰が、この要求を正当化する材料として使われているのではないか」という疑念も浮かんでくる。「こんなにコメが高ければ、米国産に頼るのも仕方がない」と国民に思わせる構図が仕組まれているようにすら感じるからだ。
食料の輸入に関しては、慎重であるべきだ。特に今回の対象となっている大豆、トウモロコシ、コメなどは、米国では遺伝子組み換え(GM)作物が主流である。主要作物の9割以上がGM品種で占められており、米国農務省(USDA)は、過去に審査経験のある作物については、同様の品種が開発されても安全性審査を不要とする制度(SECUREルール)を導入している。つまり、科学的な再検証を経ずに市場に流通する可能性があるということだ。さらに、米国食品医薬品局(FDA)による安全性審査は法的義務ではなく、企業の“自主申請”に委ねられている。表示義務も2022年からようやく導入されたが、QRコードやウェブリンクによる間接的な開示が認められており、消費者が実際に情報にアクセスするハードルは高い。加工品や外食、家畜飼料由来の食品などは表示義務の対象外とされている。
こうした制度のもとで生産された食品が、私たちの食卓に並ぶことになる。農薬成分を作り出す害虫抵抗性作物や、除草剤耐性を持つ品種が大量に栽培される中で、農薬使用量の増加や生態系への影響といった栽培システム由来のリスクは依然として存在する。実際、除草剤成分グリホサートの残留による発がん性や、GM品種の長期摂取による免疫異常・内臓変化などの報告もある。私たちは、こうしたリスクを抱えた食品を日常的に口にすることになる可能性があるのだ。そして、その「可能性」が、意図的に見えにくくされているとしたら——疑念はさらに深まる。
「米国製防衛装備品」の追加購入についても、詳細が不透明だ。政府は「既存計画の範囲内」と説明しているが、米ホワイトハウスの発表では「追加購入」と明記されており、認識のズレが見られる。FMS(対外有償軍事援助)制度を通じて、戦闘機やミサイルなどが調達される可能性が高く、2025年度予算には約1兆円が計上されている。防衛装備品の選定が、外交交渉の「おまけ」として扱われてよいはずがない。
今回の合意は、関税引き下げという一見魅力的な成果の裏に、食料・防衛という国家の根幹に関わる領域での譲歩を伴っている。それは果たして「取引」なのか、「従属」なのか。私たちは、何を守り、何を差し出したのか。そして、誰がその選択をしたのか。
私たちはそれらを見極めなければならない。
「ABEMA」HPより