【今日のタブチ】2025年夏・テレビドラマは「びっくり箱」だった ~「推しベスト5」から読み解く現場の〝こだわり〟と〝矜持〟
以前にもお伝えしたように、私はテレビ局のドラマ・プロデューサー時代からクールが変わるたびにほとんどのドラマを視聴し、それを今も映像研究として続けている。最初はたくさん見ていたドラマを徐々に絞り、最終回までたどり着くものは、1作品か2作品、多くても3作品ほどしかない。すると、そのタイミングで時代のトレンドを反映していることがわかってくる。
今クールも、現場のドラマ制作者たちは頑張って優れたドラマを生み出している。特に私が現段階で、注目しているドラマを今日は5つ挙げる。ちなみにランキングは甲乙つけがたいので、ランキングなしの「ベスト5」としたい。
なお、常に多いカテゴリーである「警察もの(弁護士・検事・その周辺を含む)」「医療もの(医者はもちろん、看護師、医療従事者を含む)」は個人的に少々辟易であるため、省かせていただいた。また、昨今過多となっている「学園もの(教師や学生・生徒を描いたもの)」も、最近読んだ書籍『学園ドラマは日本の教育をどう変えたか』に見事に総括されているため、除外した。この書籍はとても優れている。ただ、『学園ドラマは日本の教育をどう変えたか』というタイトルは大仰すぎ、風呂敷を広げ過ぎた。学園ドラマが日本の教育を変えることなどあり得ないからだ。似たような意味合いのタイトルをつけるとしたら、『学園ドラマは日本の教育を映し出す鏡だ』くらいの方が抑制が効いていてよかった。
今日の東京新聞でもコラムニストの吉田潮氏が述べていたが、今期はテレ朝のドラマが好調だ。
まずはテレ朝の『しあわせな結婚』だ。「さすが大石静脚本!」「阿部サダヲ×松たか子は外さないよなぁ」と実感させられるドラマだ。あえて『しあわせな結婚』というタイトルをつけたのも秀逸だ。特に、阿部氏のオロオロぶりと松氏の不気味さが癖になる。#1のエレベーターのシーンは夢に出てきそうなほど強烈だった。阿部氏の方を振り返った松氏の顔が怖すぎる・・・。「最高のホラー」として暑い夏の清涼剤になる。
次も同じくテレ朝の『こんばんは、朝山家です。』だ。これも主演女優の怪演が光る。中村アン氏がニコニコ笑いながらさわやかな顔で、夫である小澤征悦氏に対して〝容赦ない〟毒舌を吐く。その毒舌をするするとかわしてゆく小澤氏の演技がまたいい。だが、その毒舌には「愛がある」。家族の愛や夫婦の絆とはこういうことなのだと改めて実感させられるドラマだ。ちなみに、最近「もううちの夫婦は限界!子供も独り立ちしたから離婚する!!」とすごい剣幕でLINEをしてきた私の友人に、「一度、このドラマ見てみたら」と勧めた。
こちらもテレ朝の『誘拐の日』。韓国ドラマのリメイクということで、設定や人物描写には違和感がある部分が多々あるが、それを補って余りあるのが、斎藤工氏の演技だ。斎藤氏とはわからないほどの「おっさんぶり」と「ダメダメぶり」が新鮮である。突っ込みを入れながら見ると楽しい。
そして4つ目は、日テレの『放送局占拠』。配信を意識した作りで、バラエティとSNSとゲームを合わせたような、日テレらしいドラマだ。「次はどういう仕掛けで来るか?」といった「びっくり箱」的な演出が小気味よい。私はいつもテレビの特性や優位性として、「テレビはびっくり箱でなければならない」と述べている。番組という箱を開けたときに、いい意味での「驚き」が飛び出てきて、視聴者の想像を裏切る。それこそ、テレビが得意とするところであり、視聴者が「今見たい」と思う「リアルタイム性」につながると考えるからだ。このドラマはそういった緻密な計算が随所に仕掛けられ、次々に提示してくれる。作り手の矜持を感じさせるドラマとして評価したい。
そして最後は、あえて「警察もの」を挙げる。テレ東の『能面検事』だ。これは単なる「警察もの」のドラマではない。むしろ「警察もの」へのアンチテーゼだ。それは上川隆也氏の表情にしっかりと表れている。「無表情」の「能面」を装っているのだが、その「能面」はじっと見ていたくなる。表情を封じることで、言葉の重みや沈黙の意味が際立ち、視聴者に「読み取る余白」「考える隙」を与えてくれるのだ。あの「間」が良い。前掲の『放送局占拠』とはテンポ感という点で両極にある作品だが、テンポ感を重んじるドラマが多いなかで、貴重な存在だ。その「能面」を見ていると、実はその「無表情の中にも表情がある」ことに気づかされる。不破検事の冷静さは、単なる職務遂行ではなく「社会の常識に潜む違和感」を見抜く力として描かれ、その姿勢が、視聴者に「自分の中の先入観」を問い直させる装置になっている。まさしく〝アンラーンな〟深いドラマだ。
以上、毛色もトーンも全く異なった5つのドラマだが、どれも素晴らしいドラマだ。猛暑の中で撮影を続けているであろう現場のクリエイターたちにエールを送りたい。
テレビ朝日番組公式HPより