【今日のタブチ】2025年10月クール・ドラマ 序盤レビュー:マイBEST『じゃあ、あんたが作ってみろよ』――竹内涼真氏が魅せる“ダメ男”の《グラデーション》に思わず涙……
2025年10月クールのドラマが出揃った。
序盤レビューをおこなう前に、まず今クールドラマの特徴を3つ挙げたい。
1.主人公の設定に時代の多様性が反映している/私はよくその時代におけるドラマの「ステレオタイプ化」を傾向として指摘するが、今クールは、税理士、遺品整理人など主人公設定に「変化球」が見られる。
2.若手の脚本家の登用が目立つ/これも、実は時代の多様性が関係している。膠着したテレビ業界の人材育成を狙って、各局がベテラン脚本家ではなく次世代の脚本家をデビューさせたり、起用したりすることが増えてきた。これは、ドラマを「番組」というより「IP(知的財産)コンテンツ」とみなす考え方にも通じる傾向だ。
3.主役層に変化が見られる/日本のドラマ界は、海外に比べて「主役層が薄い」と言われる。事実、これまでは、特定の俳優がクールごとに局を変えて登板し続けるというケースが多かった。その古き風習も変えなければならない。また、ここにも多様性への変化が関係してくる。特に、フジテレビの今クールドラマには、苦労の後が見える。いい俳優ではあるが、これまでだと決して「主役級」とは言えない俳優が、起用されている。この現象には、今年2月に報道されたフジテレビ問題の影響が出始めているとの見方もある。キャスティングにおける“主役層の再編”が、今クールで顕著に現れている。
以上の3つの特徴を鑑みながら、「ほとんどのドラマを視聴し、そのなかから毎週絞り込んでゆく」という私の独断と偏見に満ちたやり方で、2週目に入ったドラマのなかから「厳選チョイス」した作品を紹介したい。
選んだ番組は、以下の6作品である。
<日本テレビ系>
『良いこと悪いこと』(間宮祥太朗主演・土曜21時)・・・今期注目の若手脚本家・ガクカワサキ氏を起用したシナリオは、伏線がよく組まれており、飽きさせないドラマとなっている。これがオリジナルであることに拍手を送りたい。初めての起用の脚本家ともなると、ともすれば「安全パイ」で原作モノに逃げそうなところを、あえてオリジナルで挑んだ。それが功を奏したのか、作品全体からは「勢い」がひしひしと伝わってくる。それは主演の間宮氏の存在によるものもあるだろうが、おそらくラストの伏線回収から逆算して緻密に練り上げているであろう、ガク氏の“迷いの感じられない”脚本の力によるところが大きいと確信する。私はテレ東のドラマプロデューサー時代に、ガク氏のオリジナル脚本作品を企画したが、実現しなかった。しかし、その時の経験で、ガク氏の真摯な仕事ぶりはよく知っている。だから、このドラマも「信用して」見ることが出来そうだ。
<TBS系>
『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(夏帆 竹内涼真 ダブル主演・火曜22時)・・・後述する。
『ザ・ロイヤルファミリー』(妻夫木聡主演・日曜21時)・・・原作者の早見和真氏自らが妻夫木氏に出演を打診したという意欲作。ナイロン100℃の喜安浩平氏が脚本を担当。こういった、舞台出身やお笑い出身の脚本家が積極的に起用されているのも、最近の特徴だろう。「さすが日曜劇場」と言えるお金のかけ方だが、何より塚原あゆ子氏の“ツボを押さえた”演出は見事だ。彼女の素晴らしさは、これほどのベテランになっても「チャレンジ精神を忘れない」ことだ。撮影方法や演出手法に、新しさを常に取り入れようとする工夫が見られる点を大きく評価したい。
<テレビ朝日系>
『フェイクマミー』(波瑠 川栄李奈 ダブル主演・金曜22時)・・・特徴として前述したように、この脚本も、TBSが6年ぶりに開催した「TBS NEXT WRITERS CHALLENGE 2023」で大賞を受賞した新人作家・園村三氏が手掛けたものだ。監督もCM界のジョンウンヒ氏を起用。これらの布陣を見ても、“新しい”ドラマを創り出そうという気概が伝わってくる作品だ。
<テレビ東京系>
『コーチ』(唐沢寿明主演・金曜21時)・・・唐沢氏の一見“枯れた”風貌が新鮮だ。そして、その外見と言葉や表情とのギャップに釘付けになり、「次に何を言うのか」と目が離せない。目が離せないという点においては、監督の及川拓郎氏のスタイリッシュな演出も効果抜群。クラッシックでハードボイルド調のBGMやな映像の色調とのギャップが癖になりそうだ。容疑者の写真を撮るマグショットを警察関係者の登場人物紹介に使ったり、ストップモーションのなかを登場人物に歩かせたりするなどの、随所に散りばめられた映像の工夫が見ものである。いい意味で、“テレ東っぽくない”作品だ。マグショット演出には、「善と悪の境目」の曖昧さをアピールする意味合いがあるのではないかと解釈した。
<フジテレビ系>
『終幕のロンド ―もう二度と、会えないあなたに―』(草彅剛主演・月曜22時)・・・作りや演出、構成に新しさはない。あるのは、遺品整理人という主人公設定が目新しいという点だ。だが、何と言っても草彅氏の演技がいい。自然と泣けてくる“しんみり”“じわじわ”と来る「味わい」があるのだ。その2点を評価して、エントリー。
以上のように、私の「厳選チョイス」によれば、TBS系に軍配が上がる。SNSでの話題性やTVerの再生数ランキングでも、TBS系の作品が上位を占めている。特に『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、「TVer満足度ランキング(10月第2週)」で1位を獲得している。
また、6作品中4つが、演劇界もしくは新人や新進気鋭の脚本家による作品という結果になった。
そして、今クールのドラマに共通する特徴を挙げると、「アンラーン(学び壊し)」ということが言えるのではないか。自分の先入観や固定観念、社会の常識を覆したり、見直したりする。そういったVUCAの時代らしい作品が、視聴者の共感を得ているのではないかと分析する。
最後に、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の考察をしてみたい。
これは谷口菜津子氏によるマンガの映像化だが、こちらの作品も、劇団アンパサンドの安藤奎氏という、いわゆる「テレビ業界」ではない“新しい血”が脚本家として抜擢されている。
この脚本がいい。会話に“リアリティ”や“ドキドキ感”がある。物語の組み方にも無理がなく、自然だ。どうしても、テレビ由来の脚本家は、「わかりやすさ」を重視し、あざとく“不自然な”脚本の運びをしてしまいがちになる。しかし、彼女の本にはそれがない。
そしてそんな“自然な”脚本を、竹内氏は素晴らしい解釈でかみ砕き、見事に表現している。この作品の竹内氏の演技には、深みがある。あるときはかっこよく、あるときは「ダメ男」・・・そしてそのダメ具合にも「グラデーション」があるのだ。私はドラマを観ながら、竹内氏演じる勝男に「ダメだよ~それじゃぁ!」と思わず声に出して突っ込んでいるが、それは実に楽しい行為だ。
ダメだけど、それでいて憎めない。応援したくなるキャラを丁寧に作り上げているところは、徹底的に「キャラ造形」にこだわる竹内氏ならではだ。さすがである。
この“造形力”は、たとえば『六本木クラス』で演じた宮部新にも通じる。あの作品では、復讐心を抱えながらも誠実さを失わない青年像を、静かな熱量で描いていた。だが、今作『じゃあ、あんたが作ってみろよ』では、もっと複雑で“ダメさ”のグラデーションがある。勝男は、かっこよさと情けなさが同居するキャラクターであり、その“情けなさ”にすら表現の段階がある。その細かな段階を、竹内氏は見事に演じ分けているのだ。
最新回(10月14日放送)では、鍵を返しに来た鮎美(夏帆)に勝男がカレーを勧めるシーンがあった。ここで私は不覚にも感極まり、落涙してしまった。勝男の“ダメさ”に宿る人間味と、竹内氏の繊細な演技が、心の琴線に触れた瞬間だった。幸せなことだ。
そんな“至極”の演技を、皆さんも確かめてみてほしい。
「TBS番組公式HP」より