【今日のタブチ】BPOがTBSバラエティ『熱狂マニアさん!』の放送倫理違反を指摘~「番組」か「ステルス」か…いまこそテレビの「信頼と覚悟」が試されるときだ
放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会が、TBS系のバラエティ番組『熱狂マニアさん!』で全篇を通して家具大手「ニトリ」の商品を紹介した放送を巡り、「番組と広告の識別に対する認識や検討が甘かった」などとして、放送倫理違反があったとの意見を公表した。
これまでにも、バラエティ番組に関しては以下のような同様の事例が過去にもBPOで審議・指摘されている。
1.毎日放送『ゼニガメ』(2024年):偽の買取現場への密着コーナーで「仕込み」があったとされ、放送倫理違反と判断
2.TBS『東大王』特番(2024年):食品メーカーの商品紹介がステルスマーケティングと誤認される恐れがあるとして、BPOが報告書提出を求めた
3.日本テレビ『月曜から夜ふかし』(2025年):街頭インタビューの編集が実際の発言と異なる文脈にされ、文化的尊重を欠いたとして審議入り
これらはいずれも「番組と広告の識別が曖昧」「視聴者に誤認を与える構成」といった点が問題視されている。
このあまりにも特定の企業に加担したかのような番組内容に関しては、私は自著『混沌時代の新・テレビ論』でも警鐘を鳴らしてきた。そこには以下に挙げるような4つの原因があるからだ。
1.視聴率至上主義:「数字が取れるから」という理由で特定企業を全面的に取り上げる傾向が番組側にはある。これはあまりにも作り手の「能力と認識」不足だ。クリエイターとして必要な「創造性」や「独自性」が全く感じられない。
2.考査機能の不全:放送前の社内チェックが機能していない。「これはまずくないか」と声を挙げる者はいなかったのか。社内のガバナンスやリテラシーの機能不全としか言えない。
3.スポンサー情報の共有不足:番組制作側と営業側の連携が不十分で、CMと本編が直結したような作りになってしまった。
そして私が最も〝根深い〟問題だと考えているのが、以下の4.だ。
4.「横並び」文化:他局も同様の構成をしているため、倫理意識が希薄化している。今回のBPOも同様の番組を放送するテレビ局が「数多く存在する」と指摘。「各局の『横並び』が、番組と広告の境目に対する放送局の関心を低下させてきたのではないか」と批判して、「公共性の視点を忘れないでほしい」と述べた。
企業から番組側に「協力金」が流れていたかどうかに関しては、明確なエビデンスはない。しかし、TBSが提出した報告書やBPOの意見書では、ニトリとの関係について以下のような記述がある。「2024年にニトリを3回取り上げていたことが判明」「番組内でニトリの商品を47点紹介し、価格や機能をテロップで表示」「番組放送中にニトリのCMが流れていた」などである。
また、ジャーナリストの岡部隆明氏は、TBSとニトリの関係について以下のように述べている。
「持ちつ持たれつ、相互互恵関係を築けるのかもしれない。『熱狂マニアさん!』でも、再び甘い汁を吸おうということになったのではないか」
そしてここには、テレビ局の構造的な問題としての「協力金の透明性欠如」が横たわる。
企業からテレビ局へ渡される金銭は、「広告費」「協賛金」「取材協力費」など多様な名目で処理される。そのため、視聴者や第三者は、その名目によって番組内容がどう影響されているかを把握できない。商品紹介が「情報提供」の形をとりながらも、実質的に販促として機能し、番組制作者も「報道かエンタメか、広告か」といった判断を明示しないまま、放送してしまう。番組企画段階で企業側からの「要望」や「条件」が含まれていても、放送ではそれが明かされないからだ。制作会議の議事録や契約書が非公開であるため、外部監査が困難という原因もある。スポンサーの影響力が強くなることで、制作側が自主性を失い、番組内容が偏っているという問題も潜在している。
つまり、法的な強制力がないため、「倫理違反」として指摘されても実質的な改善が保証されないのである。さらに、BPOなどの第三者機関の対応もあくまでも「放送後」であるため、事前の介入や契約精査はおこなえない。
このテレビの構造的欠陥は、「公共メディア」としての信頼性や報道倫理を根底から揺るがす問題だ。テレビ局が自らを戒めるしかない。それができるかどうか、いまこそ「信頼と覚悟」が試されるときだ。
「TBS NEWSDIG」より