【今日のタブチ】NHK『新・プロジェクトX』に調査報道の「使命」と「矜持」を見た─冤罪事件「湖東記念病院事件」で逆転勝訴…テレビ報道も学ぶべき「記者魂」

湖東記念病院(滋賀県)に重篤な症状で入院していた高齢患者(当時72歳)が死亡した事件─2007年、西山美香氏(元看護助手)が殺人罪で有罪判決を受け、確定。だが、それは後に冤罪であることが明らかとなり、2020年の再審で無罪が確定した。
7月5日(土)に放送されたNHK『新・プロジェクトX』「無罪へ 声なき声を聞け 滋賀・看護助手 知られざる15年」は、この冤罪事件を軸に、真実を追い求め続けた記者と弁護士、そして市民の闘いを描いていた。特に心を動かされたのは、中日新聞の記者・秦融(はた・とおる)氏と角雄記(すみ・ゆうき)氏の報道姿勢である。彼らは、獄中から家族に宛てて送られた350通以上の手紙に目を通し、西山氏が「供述弱者」であることを見抜いた。知的・発達障害がある彼女の言葉が、捜査のプロセスでどれほど歪められていたか─その構造に迫った調査報道は、単なる事件報道ではない。社会構造と司法制度の歪みに光を当てる、記者としての「使命」と「矜持」の象徴だった。
報道の使命とは、光の当たらない場所に光を当てること。矜持とは、どんな圧力にも屈せず、真実を伝え切る覚悟である。
今回の番組は、その両方を誠実に描いていた。誤報の不安と報道の責任の狭間で悩む記者たちの姿を通じて、報道が「情報伝達」以上に「社会の良心」として機能することを強く感じた。そして、彼らの報道が西山氏の人生を変えただけでなく、「供述弱者」への制度的な理解や司法改革への示唆を生んだことも忘れてはならない。
同時に、私はテレビ出身者として、強い忸怩たる思いを抱いた。報道の原点がここにあるのだと。

テレビ報道は何をしているのか。記者クラブ依存「御用記事」の量産では、真実には届かない。もちろん、地方局が地域に根差した調査報道で良質なドキュメンタリーを生み出している例はある。だが、キー局のテレビ局はどうか。フジテレビの不祥事や日テレ社長の記者会見などを見ても、報道機関としての「覚悟」が希薄であるように感じてしまう。
「それ以上はプライバシーがあるため答えられない」と言う前に、自分たちが「報道機関」であることを、今一度思い出す必要がある。
7月17日、西山氏が国と滋賀県に計5,500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が言い渡される。これは、司法だけでなく、当時殺人罪として事件を報じ、何の疑問も持たなかったメディア─とりわけテレビ報道─に対して下される「ジャッジ」でもある。
声なき声に耳を傾け続ける報道。その矜持を、メディアの誰もが、改めて胸に刻むべきではないか。

「NHKオンデマンド」より

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