【今日のタブチ】NY市長と女性知事の“誕生”が示唆する《ステルス・ウォール》崩壊の兆し

昨日のブログでは、社会に蔓延するさまざまな《壁》が、静かに、しかし確実に崩れていく様子をリポートした。制度、慣習、偏見、無関心——それらが人々の自由や選択を阻む「見えない壁」。私はそれを「ステルス・ウォール」と呼ぶことにした。これは私が最近使い始めた造語で、目に見えないが確かに存在し、社会のあちこちに潜んでいる壁のことだ。

今朝の新聞を読んでいても、その「ステルス・ウォール」が崩れていく音が聞こえてくるようだった。まず目を引いたのは、ニューヨーク市長選でインド系イスラム教徒のゾーラン・マムダニ氏が当選したという記事。彼は民主党の急進左派で、富裕層への増税や家賃値上げ凍結、公共交通の無料化などを掲げて支持を集めた。トランプ前大統領が「共産主義者」として敵視したにもかかわらず、市民は彼を選んだ。
この出来事は、宗教的・人種的な偏見という「壁」が一つ崩れた瞬間であり、アメリカ最大都市のトップにイスラム教徒が就くという歴史的な意味を持つ。まさに「ステルス・ウォール」が静かに、しかし確実に崩れた象徴的な出来事だ。
同じ紙面には、バージニア州ニュージャージー州で女性知事が誕生したという報道もあった。バージニア州ではCIA出身のアビゲイル・スパンバーガー氏が、ニュージャージー州では元海軍パイロットのミッキー・シェリル氏がそれぞれ当選。両者とも民主党の穏健派であり、性別という「壁」、そして軍や情報機関出身者に対する偏見という「壁」を乗り越えた勝利だった。
これらの出来事は、地理的には離れていても、実は密接に関連していると私は見ている。単なる偶然の連鎖ではなく、「バタフライ・エフェクト」以上に連動した動きがある。単なる偶然の連鎖ではなく、何かしらの連動性を感じさせる。地理的にも文化的にも異なる場所で起きた出来事だが、いずれも民主党の候補が勝利したという共通点がある。それが直接的な因果を示すものかどうかはさておき、社会の深層で何かが動いている兆しや要因として、見過ごすことはできない。

この流れは、先月から全米で広がっている「ノーキング(No Kings)」運動とも深く関係している。トランプ政権の権威主義的な姿勢に対する抗議として始まったこの運動は、「王様はいらない」というスローガンのもと、数百万人が参加している。これは、民主主義の根幹を守るための叫びであり、見えない壁——権力の濫用、腐敗、差別——に対する市民の抵抗の象徴だ。
こうした動きが同時多発的に起こるのは、ステルス・ウォールが崩れるとき、遠く離れた場所でも何かが動き出すという現象のように思える。静かに、しかし確実に、社会の構造が変わり始めている。

しかし紙面をめくると、まだ崩れていない壁の存在も目に入る。同性カップルが賃貸住宅に入居しようとすると、いまだに「壁」があるという記事。パートナーシップ制度が始まって10年が経っても、現実の生活の場では偏見が根強く残っている。こうした現実に触れると、ふと我が国の状況にも思いが及ぶ。制度の整備は進んでいるように見えても、実際には「ステルス・ウォール」が崩れたという実感を持てる場面はまだ少ない。むしろ、壁の存在が見えにくくなっている分、崩すべき対象として認識されにくくなっているのかもしれない
それでも、昨日から今日へと続くこの流れの中で、私は確かに「崩れる音」を聞いている。遠くの国の出来事であっても、それは私たち自身の社会を映す鏡でもある。静かな音に耳を澄ませることから、壁を崩す第一歩が始まるのではないか。

「TBS NEWS DIG」より

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