【今日の新聞から】インドライオン「野毛山の王子」天国へ~インドで野生のライオンの姿を追い求めた30年前を思い出す

横浜の野毛山動物園で「野毛山の王子」として愛されたインドライオンのラージャーが16歳で死んだ。大型のネコ科動物としては高齢だという。うちの子どもが小さいときによく野毛山動物園に行ったが、そのときも日によっては体調がすぐれないので観察檻の方には出てこない日もあった。檻の方に出てきていても、座ってじっとしていることが多かった。もうこのときすでにしんどかったのだろうといま、思い出す。
ラージャーが死んだことで、国内で飼育されているインドライオンは3頭だけになった。

記事の中で「へー」と思ったのは、ラージャーは母親に育児放棄されたため人工保育をされたという箇所だ。ライオンにも育児放棄というのがあるんだと思った。
調べてみると、この現象は野生の世界ではよくあることだという。生まれつき身体が弱かったりする個体を親は無理に育てたりしない。死んでしまった子どもを親が食べてしまうこともある。匂いで捕食者に気づかれないためだ。
また、「虐待」に関しても、かつて動物学者の多くは動物は子殺しを含めて、同種同士での殺し合いやいじめ、虐待はおこなわないと考えていた。ノーベル医学生理学賞を受賞した動物行動学者のコンラート・ローレンツは1961年に自著の中で、「同種で殺し合いをする動物はヒトだけだ」と述べている。しかし、最近では動物にもいじめや虐待、「子殺し」などがあることがわかってきた。

そしてインドライオンというと私にはもうひとつ思い出がある。インドライオンは野生ではインドの北西部に生息する。レッドリストの絶滅危惧種にも指定されている。1994年のことだ。当時、インドのドキュメンタリーを制作していた私はインド北西部を訪れて、野生のインドライオンの姿をカメラに収めようと1か月近く現地に滞在した。今でも覚えている。1994年のクリスマスも年越しも、インドで迎えた。
しかし、撮影はかなわなかった。撮れたのは、足跡とフンだけ。足跡やフンがあるということは、存在はしているのだ。だが、姿を見せてくれなかった。動物の撮影というのは本当に質が悪い。毎日の終わりには必ず「明日は撮れそうだ」と希望的観測の気持ちになるからだ。逆に言えば、そう思わないとやっていられないということもあるが。
そしてタイムアップになり、私は後ろ髪を引かれる思いでインドを後にした。

今日のラージャー死亡記事を読んで、そんな30年前のことを思い出した。

「東京新聞TokyoWeb」より


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です