【今日の新聞から】バンクシーが7日連続で新作を発表ー「器物損壊」覚悟の警察施設へのアートの意味を考える
ロンドンで正体不明の芸術家バンクシーが、7日連続で7作目の新作を公表したというニュースを読んだ。警察の監視施設に、水槽で泳いでいるような魚の群れの絵を描いたという。
このバンクシーのような表現方法のアートを「グラフィティアート」と呼ぶ。「グラフィティ」(graffiti)は「落書き」という意味を持ち、スプレーやペンなどを用いて電車の車両や高架下の壁などの公共の場に描かれた文字や絵のことを指す。ときどき、「グラフィティアートは文字や名前ベースの作品が多いのに対して、ストリートアートはシンボルやイメージ、イラストが多いのが特徴」というようにストリートアートとの違いを指摘されることもあるが、私はストリートカルチャーを代表するという意味で、グラフィティアートはストリートアートの一部だと考えている。大事なのは、単にデザインや記号としての文字やイラストだけでなく、社会的な問題や政治的なメッセージが込められていることだ。
古くはキース・ヘリングやアンディ・ウォーホルのようなのちにポップアートの巨匠と呼ばれるようになるアーティストもグラフィティアートに端を発している。美術館やギャラリーに展示されるアートではなく、誰でも自由に見ることができるパブリックアートであることにも、その意義があると考えている。
近年、正体不明のアーティスト、バンクシーの登場で、グラフィティアートが公共の場所に描かれることが容認されるような雰囲気があったが、今回の7連作の公表によって、グラフィティアートの公共物への損壊や景観への影響、所有権の問題について議論が再燃している。そのきっかけとなった事件が、公表4日目にあたる8月8日に、衛星放送の受信アンテナに描かれた「月に向かって遠ぼえするオオカミのシルエットの絵」が盗まれた事件だった。犯人は居合わせた人が動画を撮影するなか、堂々と絵を持ち去った。SNSなどでは、勝手に他人の物を持ち去る盗難の行為に非難が集まると同時に、「そもそも他人の持ち物に落書きするのは違法じゃない?」という意見もあがっている。
特に今回は、警察の施設であったことが大きな波紋を呼んだ。バンクシー側からすると、この警察の施設に描くということに意味があったはずだ。その施設は、過激派と言われるアイルランド共和軍(IRA)の襲撃を阻止するために設けられたものだという。そのメッセージを私たちはよく考えなければならない。テロを繰り返すIRAへの抗議なのか、それとも、アイルランド独立に関して物申したいことがあるのか。
もちろん、器物損壊は犯罪でよくない行為だ。だが、そういう行為で捕まる覚悟で声をあげなければならなかったのはどうしてなのかを考えたいと思った。
「EPA=聯合ニュース」より