【成果発表】連続シンポジウム「NHKと放送メディアのこれから」第1回:フジテレビ問題からテレビの未来を考える、は〝刺激的〟で〝有意義な〟場であった

4月18日のブログでお知らせした、連続シンポジウム「NHKと放送メディアのこれから」第1回:フジテレビ問題からテレビの未来を考える、が昨日5月25日㈰14:00~17:00に立教大学池袋キャンパスでおこなわれた。
とても有意義なシンポジウムであったので、ここでその様子を紹介したい。
このシンポジウムは立教大学社会学部部長で教授の砂川浩慶氏の主催であったため、立教大学の教室をお借りしておこなわれた。300人近い収容人数の大教室のほとんどが満席になるほどの盛況ぶりだった。途中休憩10分の間と閉会後に、ありがたいことに多くの方が名刺交換とご挨拶にきていただいたが、その顔ぶれは新聞社や出版社、テレビ局、通信社などのメディアの記者やフリーのジャーナリスト、メディア分野の研究者や大学教員など多彩なものだった。なかには、この日の知らせを何かで見て足を運んでくれたテレ東OBの懐かしい方々もいて、「先輩というのはありがたいものだ」とつくずく実感した。
そして、改めてこの問題に対する関心の深さを確信した。
シンポジウムは、あたまに砂川氏と武蔵大学名誉教授の永田浩三氏の挨拶と趣旨説明があったあと、第一部は私が1時間弱、講演をおこない、第二部は砂川氏の司会・進行によって、大島新氏(東京工芸大学芸術学部教授)、村井明日香氏(昭和女子大学人間社会学部准教授)と私とでトークセッションを繰り広げた。
私の講演部分の細かい内容は省くが、大きく主張したかったことは、「フジテレビの問題は、過去のジャニーズ性加害問題やドラマ『セクシー田中さん』問題、松本人志氏性加害疑惑などの問題と地続きである」ということだ。これらとちゃんと向き合い、解決してこなかったから今回のフジテレビの問題は起きた。だから、今回の問題もしっかりと解決しないとまた「第二、第三のフジテレビ問題」は起きると指摘したい。
トークセッションは、いや~なかなかおもしろかった。
フジテレビに在籍していた大島氏からは、フジテレビのリアルな実態を証明するような話が出た。「社員はみな、『上を向いて歩こう』だった」という発言には驚いた。もちろん、「上」とは日枝久氏を指す。なかでも印象的だった言葉が2つある。
1.タレントにひれ伏すのではなく、視聴率にひれ伏すのだ
これは、記者からの「なぜテレビ局はあんなにタレントに従うんですか」といったような質問に大島氏が答えて言った言葉らしいが、「それはすべて視聴率を獲るため」というテレビ局の「視聴率至上主義」を示唆している。
2.テレビ業界には「権力勾配」が存在する
男女間の格差だけでなく、テレビ局と制作会社などの格差が今回のフジテレビ問題を生み出した理由のひとつだと大島氏は指摘した。「ロイヤリティ(忠誠心)」を重要視して制作会社の格付けをするという話には震撼した。
一方、村井氏は学生へのインタビューの数字を引用しながら、テレビ局の構造的欠陥に迫っていた。村井氏は量的調査を研究の手法としている。テレビ番組の制作者と視聴者の意識・態度の違いに着目して大量の調査をおこなった研究は、優れた「博士学位論文」として発表されている。その村井氏は、「放送事業者と視聴者との間にギャップがあるのではないか」と指摘した。
テレビは配信との間で激動の時代にある。配信に比べたテレビの優位性は2つあると思っている。
1.長年にわたるコンプライアンスやリテラシーに関する訓練を受けてきているということ
2.こちらも長年にわたる制作会社や芸能事務所などとのコネクションが強いこと

しかし、それらの優位性もいまは「枷」となってる場合もあることに気づかせられた。
大島氏、そして村井氏の発言から私が導き出したことは何か。
テレビが生き残ってゆけるかどうかは、大きく以下の3点にかかっているということだ。
1.視聴率至上主義から脱却できるかいまだに地上波は「視聴率」という成果システムから抜け出せない。配信の出現によって(それを逆にうまく利用することで)、これをいかにして脱却するかに勝負がかかっている。
2.権力勾配を是正できるかここには「ライツ(著作権)」という大きな問題が横たわっている。だが、すでにライツを囲い込むという発想は時代遅れなのではないか。
3.視聴者のリテラシーをどれだけ涵養してゆけるかテレビの問題は視聴者、すなわち「電波の所有者」である国民と一緒に考えなければならない。そのためには、視聴者側のリテラシーを高めてゆくことも必要だ。
そして大切なことは、こういった話し合いや議論を継続してゆくことである。そういった意味でもこのシンポジウムは素晴らしい存在だ。
砂川氏、大島氏、村井氏など多くの有識者の方々とのセッション。自分自身の考えを整理するうえにおいても、とても有意義であった。お三方にはもちろんのこと、このシンポジウムを企画し、準備してくださった元NHKの長井暁氏、永田氏ほかの皆さんにこの場を借りて感謝を申し上げたい。


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