【親愛なる「兄」】音楽家・ツルノリヒロ氏との33年

昨晩は、私の「兄」のような存在の親愛なるツルノリヒロ氏(本名は、都留教博氏)と久々に飲んだ。去年の12月以来だ。ツルノリヒロ氏は私たち夫婦の結婚時の立ち合い人でもある。ちょうど7歳離れているが、無礼な私は年の差関係なくこれまでも友だちのようにさまざまなわがままを言ってきた。でも、いつもツル氏はにこにことした面持ちでほとんどのことを受け入れてくれた。そういう意味では、「父」のような存在でもあるかもしれない。

ツル氏との最初の出会いは1991年、ちょうど私が『雲上の秘境・チベット』というドキュメンタリー番組を放送したあとだった。この作品でドキュメンタリー制作に目覚めた私は「日本人の源流シリーズ」を始めようと『ヒマラヤの秘境・ブータン王国』という作品を企画していた。そんなとき、局の大先輩の中原研一氏というプロデューサーが「タブっちゃんの映像に合うんじゃないかと思う音楽があるんだけど」と、当時『アルスラーン戦記』というアニメーション映画のサウンドトラックを担当していたツル氏の音楽を教えてくれた。
そしてそのあとに付け加えた言葉が、私の心に火をつけた。


「でも、音楽負けするかもしれないね。それくらい壮大な音楽だから」

私はちょっと「カチン」と来ながらも、「そんなスゴい音楽なのか」と生意気にも闘争心にかられ、曲を聞いた。
その瞬間に世界が変わったかと思った。
それくらいショックを受けた。これまで聞いた音楽とは世界観がまったく違う。ツル氏(そのころはまだ都留教博という本名名義だった)は日本人じゃないのかと思った。それくらい、スケールがでかかったからである。早速私は、マネージャーに連絡を取った。すると「ちょうど次のアルバムを準備している」とのことだった。そのデモテープを聞いたときにも再度、ショックを受けた。特に、『太古の太陽』というタイトルのアルバムのタイトル曲「太古の太陽」にほれ込んでしまった。
そこで、私はこの曲を『ヒマラヤの秘境・ブータン王国』をはじめとしてこれから続けていこうと思っている「日本人の源流シリーズ」のテーマ曲にできないかと考えた。そしてツル氏に交渉しに行くことにした。

初めてツル氏に会ったときのことは、今でも鮮明な映像として覚えている。私は、大事なシーンはなぜか映像で記憶していることが多い。
ツル氏のスタジオを訪問してガチガチに緊張しながらツル氏を待っていると、「お待たせしました」ととても柔和な雰囲気でツル氏が現れた。これまで見てきたアルバムのジャケットのツル氏は、正直「近寄りがたい」オーラを持っていた。一言で言えば「怖そう」な感じだった。「なんで私の曲を使いたいのか?」「その意図は何か?」と理論攻めにされるような勢いの人だと勝手に思い込んでいたのだ。
しかし、そうではなかった。ツル氏はその端正で一見冷たく見えるかもしれない(失礼!)その容貌からは想像できないほど温かく、心の広い人だった。
「こういう人だから、ああいう音楽ができるのだ」とそのとき強く納得したのを、今でも覚えている。

そして楽曲「太古の太陽」は無事に「日本人の源流シリーズ」のテーマ曲として使わせていただくことになり、『ヒマラヤの秘境・ブータン王国』を皮切りにその後『ヒマラヤ天空の秘境・ラダック』『ヒマラヤ最東端・秘境に生きる女たち〜遥かなるムーリ高地』『秘境ヒマラヤ・精霊と生きる家族たち〜心の故郷・幻のナガランド』という作品たちの世界観を作り上げてくれた。
そしてそのあと、ツル氏には私のドキュメンタリー作品に数限りなく多くのオリジナル楽曲を書き下ろしてもらっている。そのなかには俳優・仲代達矢氏が旅人のテレビ東京開局35周年記念番組『ネシアの旅人〜もうひとつの海のシルクロード』や同じく俳優・役所広司氏が旅人で元SMAPの草彅剛氏がナビゲーターを務めたテレビ東京開局45周年記念番組『封印された三蔵法師の謎~シルクロード30,000キロに挑んだ男』などがある。また、ツル氏自らが旅人となった『バリに生きる〜その命の源』も楽しい思い出のひとつだ。
ツル氏はご自身で作曲もするし、ピアノも弾くが、メインの肩書はヴァイオリニストである。私はいつも楽曲を提供いただくときに、スタジオに泊まり込んだりしてツル氏が弾くヴァイオリンを目の前で聞いてきたが、いつも「神業だなぁ」とヴァイオリンのうまさに脱帽だった。ツル氏のヴァイオリンには「人生」や「こころ」がある。

いやぁ……長くなった。本当にツル氏との思い出は多く、今日はこのあたりにしておこう。一緒に飲んでいたときの豪傑話など逸話には事欠かないので、次回にまたご紹介することにしたい。

最後に、本当に「太古の太陽」は素晴らしいので、聞いたことがない方は是非聞いてみていただきたい。
ツルノリヒロ氏HP☛https://www.norihirotsuru.net/

私が「怖い」と感じていたツル氏のジャケット
……いま見るとそうでもない(笑)

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