【今日の新聞から】東大授業料値上げに在校生の抗議が相次ぐーなぜ大学は「反発」覚悟で値上げに踏み切ったのか?
東京大学が授業料を値上げする改正案を公表したことを受け、大学が揺れている。
東大生有志による「東大学費値上げ反対緊急アクション」は「議論が十分とは言えない状況で値上げが拙速に決定されようとしており、強い懸念を表明する」との声明を発表し、学生自治会も会長と理事会名で抗議している。値上げ検討が報道された6月に学長と学生がオンラインで意見を交わす「対話」がおこなわれた際には、学長に面会を求める学生約100人が安田講堂前に集まり、警察が出動する騒ぎとなった。
この事件のポイントは、「東大学費値上げ反対緊急アクション」も述べているように「議論が十分とは言えない状況で値上げが拙速に決定されようとして」いるという点だ。これまでの対話や話し合いは「十分ではない」と学生側が思っているという「事実」を重く観なければならない。
授業料値上げ額は、2割に当たる約10万7千円。その結果、64万2,960円となる。10万円強の値上げは、地方から上京している学生にとって、〝痛い〟数字だ。抗議行動を起こした学生たちの気持ちを考えると、こころが痛む。
なぜ、大学側は話し合いや対話が十分でないと学生が思っていることをわかっていながら、改正案を公表したのか。
ここには、「待った」とは言えない大学側のひっ迫した状況がある。
法人化から20年が経過し、国からの運営費交付金が減少するなか、財政状況は厳しい。国立大学の運営費交付金は、国の財政難などを理由に縮小傾向が続いている。東大の運営費交付金も約20年で80億円近く減り、23年度は847億円だった。その穴埋めをするために、産学連携や寄付金の獲得などに力を入れていた。しかし、これも限界に来ている。
加えて、来年度の運営費交付金は847億年からさらに約90億円減額が予想されている(「明日の東京大学-危機に立つ財政」(説明会)質疑応答まとめ 前田理事の回答より)。授業料収入は約160億円だというから、この減額分の90億円を補うと70億円しか残らない。運営費交付金は、教育・研究活動の基盤となる資金である。この減少は教育や研究の「質の低下」につながりかねない。教育や研究の質の低下は、大学のステイタスや学生・教員の質を下げることになり、存在意義にも抵触しかねない。大学としては、何としてもそうならないように死守したいところだろう。
そういった大学の台所事情が、背景にある。
大学や学長はこういった状況を学生に説明したのだろうが、「だから授業料値上げを容認してほしい」という論旨一辺倒になったのではないかと私は推測する。例えば、学生に「大学運営」の現状を十分に知ってもらい、「どんな施策や対抗策があるか?」「これを補うためのアイデアはないか?」などの投げかけによって、「一緒に考えてもらう」という方法もあるのではないだろうか。
大学の質の低下は、学生側からしても望んでいることではないはずだ。
今回の問題解決のためには、「現状を共有する」ということから、丁寧にやり直すという道もあるのではないだろうか。
東大の藤井輝夫総長との面会を求めて、
安田講堂前で抗議活動をする学生ら=2024年6月21日午後10時ごろ
「朝日新聞DIGITAL」より