【おススメドラマ】まだまだテレビも捨てたものじゃない!~『ライオンの隠れ家』における「自閉症スペクトラム障害(ASD)」の描きかたの秀逸さ
今クールの私のなかのドラマNO.1は文句なしに、TBS系の『ライオンの隠れ家』だ。私は社会派ドラマが好きで、どうしてもテレビドラマには「ハラハラドキドキ」を求めてしまうが、このドラマのトーンはそんないつもの好みとは系統が違う。だが、最終回を見終わっても感慨深くこころに残っている余韻を楽しんでいる。それには大きな2つの理由がある。
1.まずテーマが自閉症スペクトラム障害という難しいものであったこと
2.なんといってもキャストの演技が素晴らしかったこと
1.に関しては、私が日本テレビのドキュメンタリー、NNNドキュメントで『障害プラスα~自閉症スペクトラムと少年事件の間に~』という番組を作ったことが大きい。そのあとに『発達障害と少年犯罪』という書籍を執筆したが、いまも多くのASDの当事者の方やその親御さんからお手紙や連絡をいただく。このドキュメンタリーのナレーターを務めていたのが『ライオンの隠れ家』の主演の柳楽優弥氏だった。そういった縁もあって、見る前から楽しみにしていた。
ドラマは最初はサスペンスタッチで始まり、途中までは失踪した姉の謎やその親子への虐待が縦軸となっていた。そのため、視聴者のなかにはミスリードされた人もいたのではないだろうか。そういった意味では、このドラマは「よい裏切り方」をしてくれたと思う。後半は、本来ドラマが目指していたであろう方向に舵を切っていったからだ。前半のサスペンス部分というのは、ASDを抱える青年とその家族が生きてゆくうえでぶち当たる「困難」の単なるひとつの象徴に過ぎないからだ。
大前提として、ASDという難しいテーマに真っ向から挑んだことにまずは拍手を送りたい。
そしてこのドラマの秀逸な点は、もちろん、苦しいのはASDの当事者ではあるが、その周りの家族の苦しみや悩みをしっかりと描いている点だ。読んでいただいた方はおわかりだが、自著『発達障害と少年犯罪』は「発達障害が少年犯罪に結びつく」と定義づけているものではない。だが、周囲の環境によって発達障害というのは、いい方にも悪い方にも転んでしまうということだ。そしてそのたびに、周りの人間は一喜一憂する。そんな葛藤を、ドラマはよく描き出していた。このドラマのすごさは、ASDをテーマとしてとらえながら、ASDの当事者にスポットライトを当てるのではなく、その兄を照射したことだ。ASDに必要なのは周りの「理解」だからだ。「無関心」や「過干渉」が一番の大敵だ。そして同時にASDを抱えている本人と同じように、周りの人にも人生があるということだ。
このドラマが訴えたいのは、障害を抱えた人とその家族の共生のあり方だ。どちらに重きがあるわけではない。どちらも平等で、どちらも悩み、どちらもしっかりと自分の人生を生きる権利があるということだ。
2.のキャストの演技に関しては、柳楽優弥氏のこころにじんわりとしみ込んでくる〝至極の〟演技はもちろんのこと、ASDを抱えるという難しい役に取り組んだ坂東龍汰氏、ライオン役の70人のなかからオーディションで選ばれたという佐藤大空氏、この3人の演技には驚かされた。坂東氏の勉強は半端ではなかったと想像する。私が取材のときに数多く直面したASDの特徴を見事に演じ切っていたからだ。特に、あのいつも「不安そう」で「何かに怯えている」ような目の動きは素晴らしかった。推測に過ぎないが、実際に多くのASDを抱える方々に会ったのではないだろうか。
なかなかいいドラマを見せてもらった。地上波の配信化が進み、量産されるドラマのなかで、信念を持って歯を食いしばりいいドラマを送り出そうというキャストやスタッフの心意気がつまったこのような作品に出会うと、「まだまだテレビも捨てたものではないな」と思えて嬉しい気持ちになった。
皆さんも機会があれば、じっくりとこのドラマを見てみてほしい。絶対に「早送り」では見るのはもったいない。そんなドラマだ。
「TBSテレビ」公式HPより