【活動報告】桜美林大学・田淵ゼミ合宿@伊東温泉の教科書を超える「現場力」――学生たちは2泊3日で何を学んだのか
昨日はブログを更新できなかった。というのも、前回のブログの冒頭にも書いたように、本学・桜美林大学の田淵ゼミの合宿で伊東に来ているからだ。とにかく、学生と濃密で多忙な2泊3日を過ごしている合宿だ。
わがゼミでは、合宿中に「打ち合わせ→撮影→編集&仕上げ」をこなすという「枷」を敷いている。それは、例えばテレビ番組の制作において、スタッフが「3日間」という期限を与えられて、そのなかで番組を作り上げるということに似ている。プロの世界では、当たり前にあることだ。
それをゼミ生に経験してほしい。そしてその緊張感や、さらに言えば、それによって生じる問題点や解決策を見出してほしいという願いである。まさに“教科書では得られない”学び。そういった世界に学生を連れ出す、という私の教育方針とも言えるだろう。
今回、学生たちがこの2泊3日の間に制作する映像は、合宿先の伊豆半島・伊東温泉を舞台にして、「なぜ伊東が温泉地になったのかを探りつつ、ご当地ゆるキャラの『マリにゃん』を探す」というテーマだった。これはもちろん、学生たちが事前に企画し、当日に撮影したり訪れたりする場所や店なども自分たちでアポ取りや交渉をおこなった。
撮影初日、学生たちはまず綿密な打ち合わせからスタートした。各自がこの合宿での自身の目標を語り合い、それを共有することでチームとしての方向性を確認する。そこで議論になったのが「天候」だった。初日は晴れの予報だったが、2日目は急遽雨の予報に変わってしまった。これでは予定していた屋外撮影が成立しない。特に、観光地の景色が雨模様では絵にならないという懸念が出た。
さてどうするか。学生たちはスケジュールの練り直しという初めての経験に直面することになる。撮影順の変更、屋内で代替できる構成の検討、そして関係先への再連絡。まさに“現場対応力”が試される瞬間だった。
さらに、マリンタウンという道の駅でご当地ゆるキャラ「マリにゃん」を撮影する場面でも、事前に許可申請を済ませていたにもかかわらず、現地で急遽細かな交渉が必要となった。撮影場所の制限、通行人への配慮、キャラクターの登場タイミングなど、現場でしか起こり得ない調整が次々と発生する。
こうした初めてする“生きた経験”は、教室では決して得られない。学生たちは、ただ映像を撮るだけではなく、現場で人と対話し、信頼を築きながら制作を進めるという、映像制作の本質に触れていた。その姿勢に、私は心の中で拍手を送っていた。
ロケ中は、私はなるべく余計な口を出さないように、後ろからついてゆく役目だ。一応「引率」だは、あくまでもゼミ合宿や映像制作は教員が準備したり段どりをするものではないという方針だ。彼ら彼女たちがやっていることに文句や注文などの横やりを入れないようにする。だが、これが実は難しい。そこで、あくまでもスケジュールやロケ進行、交渉などは学生の「自主性」に任せながら、今回私が心がけたのが、技術的や演出的な指導に徹することだった。
学生たちが決めて実行していることや内容は尊重しつつ、そのときの撮影方法や、実施方法については気が付いたところは言ってゆくようにした。それは、学生側も望んでいることだと思ったからだ。最初の打ち合わせ時の目標を述べる際に、「技術的なスキル、演出的なスキル」を習得したいということを挙げる学生が多かった。だから、カメラワークや細かな撮影技法や演出手法に関して、気が付くたびにアドバイスをするようにした。例えば、料理はこう撮ったほうがおいしそうに見える、建物の外景を撮るときのコツなど。
このあと、10時から会議室で、完成した映像を皆で見る。学生たちは昨晩の夕食後、ほとんど徹夜状態で編集を完遂し、作品として仕上げている。どんな作品になっているか楽しみだ。
そして私自身も、今回の合宿を通して、学生たちが“現場で考え、動き、創る”というプロセスに真摯に向き合っていたことに深い手応えを感じている。若い彼らが、懸命に物事に向き合う姿は、還暦を過ぎた私にとっても、大きな「学び」だ。私は彼らに教えているが、彼らからも教えられ育てられている。技術や演出はもちろんだが、それ以上に「自分たちで企画し、責任を持ってやり遂げる」という経験が、彼ら彼女たちの今後の学びに大きな意味を持つことだろう。
