【今日のタブチ】「違和感」のなかに立つ――国際アートフェア〈Tokyo Gendai 2025〉と教育におけるフィールド感覚
昨日14日は、ビジュアル・アーツ研究の一環として、パシフィコ横浜で開催された国際アート・フェアに行ってきた。今回の目的は、近年注目されているファインアート、デジタルアート、映像作品の境界を越えた融合的な表現が、国内外のアートシーンにおいてどの程度浸透しているのかを確認することにあった。
とりわけ、若手アーティストによるジャンル横断的な試み、たとえば、デジタル技術を用いたインスタレーションに映像的要素を組み込むような作品や、映像そのものを素材として扱うファインアート的アプローチが、どのような形で展開されているのかに関心があった。日々の教育実践やフィールドワークの中で、学生たちが自然とそうしたハイブリッドな発想に向かっていることを感じており、それが世界的な潮流との間でどういった接点があるかを見極めたかった。
実際に会場を巡ってみると、ファインアートの領域では素材や技法、テーマにおいて非常に多様で挑戦的な作品が並んでいた。絵画や彫刻といった伝統的な形式にとどまらず、布や廃材、光や音を用いた作品など、表現の幅は広がっていた。一方で、期待していた映像とデジタルアートの融合的な作品は、思いのほか少なかった。映像を単体で扱う作品や、デジタルアートとしてのインタラクティブな展示は見受けられたが、それらが有機的に結びついている例は限られていた。
この点は、私自身の現場感覚、つまり、教育や制作の場で感じている「融合への自然な流れ」とは乖離しており、少なからず戸惑いを覚えた。フェアの特性上、商業性や展示スペースの制約が影響している可能性もあるが、単にまだ表現の成熟が追いついていない段階なのかもしれない。あるいは、融合的な作品が別の文脈、例えばメディアアートの専門フェスティバルや、大学・研究機関主催の展示など、に場を移している可能性もある。
いずれにせよ、今回のアートフェアは、教育という現場での実感とグローバルな展示動向とのギャップを浮き彫りにする貴重な機会となった。理論的な考察だけでは見えてこないものもあるとつくずく感じた。
ここからは、あくまで個人的な視点で、印象に残った作品を振り返ってみたい。
第5位:桑田卓郎作『Untitled』(2025)
とにかく、かわいらしく、それでいて“躍動感”に溢れた作品だと感じた。観る者によって、何にでも形を変え、見えるものが違うという「想像力」を搔き立てられるという点がいいと思った。『Untitled(無題)』というタイトルにも、「自由に想像してください」という作り手の意思が垣間見られる。ちなみに私には、表面の突起は壁を登る人で、右側の金を求めて人々が黄金郷(エルドラド)にある塔をよじ登るシーンを想像した。皆さんは何に見えるだろうか。
第4位:Konstantin BESSMERTNY『Stultifera』(2025)
解説はないが、おそらく15世紀のドイツ人作家セバスティアン・ブラントによって書かれた諷刺文学『阿呆船』をモチーフにしているのではないかと想像する。『阿呆船』は、ありとあらゆる種類・階層の偏執狂、愚者、白痴、うすのろ、道化といった阿呆の群がともに一隻の船に乗り合わせて、阿呆国ナラゴニアめざして出航するという内容だが、この絵画は、現代の権力や欲、カネに固執するさまを描いたものと推察した。とにかく細かく、観ていると次々に新しい発見をしてゆける「玉手箱」のような作品性が気に入った。
第3位:PARK SUNG-TAE作『Babies』(年代不詳)
1本のワイヤーを紡ぎ、それに凹凸をつけて表情や動きを表現している。観る角度によって、表情が変化するさまに驚かされた。今にも動き出しそうなリアルさは写真を起こしたものだからなのか、デッサンから立体化したからなのか、制作工程にも興味が湧いた。
第2位:原高史作『作品名不明』(年代不詳)
映像と展示物とのハイブリッドによるインスタレーションに興味がある私は、やはりこれが面白かった。展示物と映像が一体化しているが、箱の中を覗くと映像が流れている仕掛けだ。いわゆる「びっくり箱」のような驚きと意外性をくすぐられる作品。映像はロールプレイング方式になっていて、登場する物が細かな動きをする。細部にわたるまでの演出や計算が見事だと思った。
第1位:KAKU作『Untitled』(年代不詳)
この作品には単純に感性を揺さぶられた。全体像は群れる魚だが、ヨリで観ると魚たちには大小あり、それぞれに表情がある。大きな魚は小さな魚を飲み込もうとし、小さな魚は飲み込まれまいと逃げ惑っている。これも観る者に感性を委ねるように、タイトルは『Untitled』だ。私はこれは現代社会を表現していると感じた。魚は、格差が広がり、弱肉強食がさらに強調されるいまの人間たちを表現していると思った。皆さんはどう感じるだろうか。
総じて、なかなか見ごたえのある、さまざまな気付きや学び、そして想像力や研究欲をかきたててくれるレベルが高いアートフェアであった。今回の違和感と発見を出発点として、今後も継続的に調査を進め、教育現場での実践とアートシーンの動向を往復させながら、より深い理解を目指していきたい。
