【今日のタブチ】音楽ライブで《寿命》が最大9年延びる?――その「生きている実感」は、“本物”か

「音楽ライブに行くと、幸福度が上がり、寿命が最大9年延びる可能性がある」──そんな研究結果がイギリスで発表されたという記事を読んだ。にわかには信じがたいが、もしそれが本当なら、ライブ会場は医療施設に匹敵する“命の現場”なのかもしれない。
この数字は、イギリスのゴールドスミス大学携帯電話会社O2による共同研究に基づいている。行動科学の専門家パトリック・フェイガン准教授は、音楽ライブに定期的に参加する人は幸福度が高く、その幸福度の上昇が健康や寿命に良い影響を与える可能性があると述べている。ライブに20分参加するだけで幸福度が21%上昇し、2週間に1回のペースで通う人には、最大9年の寿命延長が見込まれる──という推定だ。
もちろん、これは統計的な相関に基づく推論であり、厳密な医学的因果関係を証明したものではない。だが、そうした科学的な根拠の有無を超えて、私が惹かれるのは、音楽ライブがもたらす「生きている実感」そのものだ。
だからこそ、ここで立ち止まって考えたい。「寿命が延びる」とは、いったいどういうことなのか
私たちはしばしば、寿命を「生きている年数」として捉える。だが、鼓動が続いていることと、“生きている”ことは、同義だろうか。医療の進歩によって延命は可能になったが、それが「生の充実」を意味するとは限らない。
むしろ、心が震える瞬間、身体が目覚めるような体験こそが、“生きている時間”を濃密にするのではないか。そう考えると、「寿命が延びる」という言葉は、単なる年数の話ではなく、「生の質」が変わるという意味にも読み替えられる。
たとえば、今の我が家にはそんな瞬間がある。息子と娘が「ヨルシカ」のライブに行く予定を立てていて、数週間前から「その前にどんな晩御飯食べる?」「どんな服を着ていく?」と、楽しそうに話し合っている。夕食の団欒時にも「楽しみだね」と何度も繰り返しながら、目を輝かせている。そんなときの彼らは、まるで光を放っているように見える。
ライブ当日が来る前から、彼らの“生きている時間”はすでに始まっている。期待、準備、共有──そのすべてが、時間の密度を高めている。これは、ただの娯楽ではない。彼らの“生”が、確かに深まっているのだ。音楽ライブには、録音された音源では得られない力がある。会場の空気、隣の人の熱気、ステージ上の一瞬の沈黙──それらが混ざり合って、私たちの身体と心を揺さぶる。ドーパミンが分泌され、ストレスが軽減され、免疫力が高まるという科学的な説明もあるが、それ以上に、「今ここにいる」という実感が、時間の密度を変える。
1時間のライブが、1日分の“生”に匹敵するような体験になることもある。それは、時間が延びたのではなく、時間が“深まった”のだ。
「寿命が延びるかどうか」よりも、「どう生きるか」「何に心が動くか」が、私たちの生を形づくる。音楽ライブは、その一つの答えかもしれない。
そして何より、音楽ライブは、私たちに「生きているとは何か?」を問い直させてくれる。数字では測れない“生の実感”を、身体と心に刻み込んでくれる。
それはまさに、「生きている実感」の本質を考える貴重な時間でもあるのだ。

「HIBINO BREAK TIME」HPより

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