【今日のタブチ】《事務業務》に忙殺される小・中学校の教員――世界の“常識”から遅れている我が国の「ワークライフバランス」
今朝の新聞で目にしたOECD(経済協力開発機構)の「国際教員指導環境調査(TALIS)」2024の結果に、思わず手が止まった。日本の教員の勤務時間は、前回2018年調査より約4時間減少したものの、依然として世界最長。小学校教員は週52.1時間、中学校教員は55.1時間勤務しており、参加国平均よりそれぞれ約12時間、14時間も長い。
授業時間は小学校23.2時間、中学校17.8時間と、国際平均より短い。
つまり、長時間労働の主因は授業以外の業務にある。特に事務作業は小中ともに平均より約2時間長く、中学校では課外活動に平均の3倍以上の時間を費やしている。
私が特に気になったのは、教員が感じるストレスの要因だ。
最も多かったのは「業務時間が多すぎること」で、小学校66.0%、中学校62.8%の教員が「かなり感じる」または「非常によく感じる」と回答している。次いで「保護者の懸念へ対処すること」が小学校58.7%、中学校56.4%と、前回より10ポイント以上増加している。さらに「欠勤による追加業務」も急増し、前回は2割弱だったのが今回は4割超に達した。
他国ではこうした事務業務の負担を軽減するための制度整備が進んでいる。たとえばイギリスでは「学校経営マネージャー(School Business Manager)」が財務や施設管理を担い、教員は教育に専念できる体制が整っている。シンガポールでは「教員支援スタッフ(Teacher Aides)」が教材準備や事務作業を補助し、韓国やフランスでは校務分掌の多くを事務職員が担う。アメリカでも、保護者対応や広報業務などを専門スタッフが分担する例が多い。
こうした国々では、教員の専門性を尊重し、教育活動に集中できる環境づくりが教育の質向上に直結すると認識されている。
日本でも、教員の業務負担軽減に向けて「スクール・マネジメント・チーム(MT)」の導入が進められている。校長や教頭、事務職員、外部人材が連携し、教員が教育活動に専念できるよう支援する体制だ。しかし、制度設計や予算措置は自治体によってばらつきがあり、海外のように制度化された職種が担う仕組みとはまだ距離がある。
実際には、教材発注、安全点検、調査回答、広報、保護者対応などを教員が一手に担っている学校も少なくない。事務職員の配置も地域差が大きく、制度的な支援は不十分だ。TALISの結果が示す長時間労働の背景には、こうした構造的な遅れがある。
以上のような状況は、単なる「働きすぎ」の問題ではない。教員の疲弊は授業の質に直結する。準備不足や集中力の低下は、生徒の理解や関係性にも影響を及ぼす。若手教員の離職率上昇や採用難も、長時間労働が一因とされている。教育現場の創造性や柔軟性が失われれば、探究的な学びや対話的な授業の実現は遠のく。
一方で、社会の働き方観との乖離も見逃せない。高市氏が「ワークライフバランスという言葉が好きではない」と語る姿勢は、かつて「24時間戦えますか」と歌われた『勇気のしるし〜リゲインのテーマ〜』(1989年)にも通じる。働くことを美化する価値観は、今もなお社会の根底に息づいている。教員も例外ではなく、「子どものために」「学校のために」と自己犠牲を当然視する風潮がある。
しかし、教育は持続可能でなければならない。事務作業の外部委託やICTの活用、保護者対応のガイドライン整備など、具体的な改善策はすでに議論されている。教員の「働き方改革」を教育政策の中心に据えることが、未来の学びを守る第一歩だ。
TALISの数字は、単なる統計ではない。そこには、疲れた顔で教室に立つ教員の姿がある。その現実に目を向け、何が失われつつあるのかを検証することこそ、私たちに求められている。
「Yahoo!ニュース」より