【今日のタブチ】「事実」を武器にするトランプ大統領――〝侮れない〟発言……その巧みな《演出》に隠された意図
トランプ大統領が来日している。ノーベル平和賞の推薦をはじめ、我が国の総理の“みっともない”ほどの「おべっか」には情けなくなる。言っていることややっていることにも“自主性”がなく、目新しさに欠ける。
その点、トランプ大統領の発言には「なるほど」と思わせられた。「事実」に基づいているからこそ、納得してしまうのだ。
念のために言っておくが、私はトランプ支持者ではない。世界の和平を壊し、自分の都合のいいように物事を操ろうとするやり方には賛同できない。また、そのやり方の“下品さ”にはほとほと呆れるばかりだ。だが、そのことと「言っていることが正しいかどうか」は別の次元の話だ。
昨日、米海軍横須賀基地に停泊中の米原子力空母ジョージ・ワシントンでおこなった演説の言葉にも、頷く点が多い。
米兵に向けて言った「トヨタを買いに行け」という促しは、一見、米大手自動車の日本への売り込みを図っているトランプ氏にしては異例と思うかもしれないが、そうではない。そこにはしっかりと「思惑」がある。この発言は、高市氏から「トヨタ自動車が全米各地に工場を建設し、その規模が100億ドル(およそ1兆5千億円)を超える」と聞かされ、日本の対米投資に気を良くしたことから来ている。
また「日本は米国への巨額投資で株価が上昇して喜んでいる」とも述べたが、これも言い得て妙だ。「株価が上昇している」ことは事実だし、その大きな要因の一つに、防衛費を含む「米国への巨大投資」があることも概ね正しい。
実際、2025年現在、日本企業による対米投資は約84兆円(5500億ドル)規模に達する見込みと報じられており、AI・電力インフラ・原子炉開発など多岐にわたる分野で米国との共同事業が進んでいる。これを好感した市場では、フジクラ、パナソニック、日立、三菱電機、村田製作所、TDKなどの株価が一時的に高値を更新した。
つまり、トランプ氏の発言は、単なる“おべんちゃら”ではなく、実際の経済動向を巧みに織り込んだものだ。だからこそ、質が悪い。
トランプ氏の発言は、時に事実を突きながらも、その“使い方”があまりに恣意的で、結果として危うい方向へと世論を導く。そこにこそ、最大の警戒が必要だ。
たとえば、今回の来日中に語った「日米同盟は全世界で最も卓越した関係だ」という言葉。一見、同盟国としての日本を称える発言に聞こえるが、その裏には「だからこそ、もっと金を出せ」という無言の圧力が透けて見える。実際、今回の会談では日本側が提示した80兆円規模の対米投資構想が話題となり、その中には米国の老朽化インフラや防衛産業の再建支援が含まれているという。つまり、トランプ氏の“称賛”は、巧妙に経済的利益を引き出すための布石でもある。
また、拉致被害者家族との面会を実現させたことも、表面的には「人道的配慮」に見えるが、これは日本国内の世論を味方につけるための演出とも取れる。実際、トランプ氏は「正恩氏が望むなら、ぜひ会いたい」と語り、再び北朝鮮との“ディール”に意欲を示している。このような発言は、被害者家族の感情を利用しつつ、外交カードとしての“人道”を都合よく使っているに過ぎない。
さらに、「日本は最強の同盟国であり、あなた(高市首相)は史上最高の首相になるだろう」とまで持ち上げた。これもまた、相手の自尊心をくすぐりながら、より大きな譲歩を引き出すための“お世辞外交”である。こうした発言に浮かれてノーベル平和賞の推薦までしてしまう我が国のリーダーは、やはり“自主性”という言葉から遠い。要するに、トランプ氏の発言は、事実を巧みに織り交ぜながら、相手の感情や世論を操作するという点で、非常に“質が悪い”。それは、単なる虚言よりも始末が悪い。なぜなら、聞く者に事実に基づいた「納得感」を与えてしまうからだ。
だからこそ、我々はこうした発言に対して、「正しいかどうか」だけでなく、「なぜ今それを言うのか」「誰の利益になるのか」という視点で見抜く力を持たねばならない。トランプ氏の言葉が“侮れない”のは、彼が事実を語るからではなく、事実を“利用する”からである。
「テレ朝NEWS」HPより


