【今日のタブチ】追悼:人生の「大事なこと」は、ほとんど仲代達矢氏に教えてもらった③――笑顔でアリを頬張り、発酵酒を豪快に飲む……“恐るべき”プロ根性
昨日の「カナヅチ」ばなしに続き、今日はロケの際の「食」にまつわるエピソードを紹介したい。
撮影は1年以上に及んだが、もちろん、その間ずっと撮影しているわけではない。ミクロネシア、メラネシア、ポリネシアという3つのネシアを島ごとにたどりながら、縄文人が南米まで渡ったという説を検証するため、日本から現地に向かい、その場所で日本との共通点を探し出し、撮影をするということを繰り返した。そして撮影が終わると日本に帰国し、仲代氏は無名塾の公演やほかの仕事をするという感じだった。現地への旅は、南米大陸を含み6回にも及んだ。
仲代氏の「気遣い」を象徴するエピソードがある。
ネシアの島へは、たいていどこかでトランジットすることになる。最初のトランジットのとき、空港で付き人の中山研氏が大きな段ボールを抱えていた。「どうかしたのか」と聞くと、仲代氏が「田淵さんが赤ワインが好きだから、1ダース買って持っていこう」とおっしゃったというのだ。それから、どこかの島や孤島に向かうたびに、その前に乗り換えする空港で赤ワインを仕入れるというのが中山氏の役目となった。現地の村に民泊するときも、「ポン!」とコルクを抜く音が村中にこだまし、毎晩赤ワインのご相伴を授かることができた。
食べ物のエピソードには枚挙にいとまがない。トロブリアンド諸島では、現地のおもてなしで客人にアリをふるまう風習がある。ガサゴソと動いている生きたアリだ。「まさか食べないだろう。きっと仲代さんは断るに違いない」と思っていたら、仲代氏は豪快に笑いながら、差し出された大量のアリを口に頬張った。その潔さに私は驚いたものだ。
また、南米エクアドルのコロラド族の風習でも、客人にふるまうものがある。カヌーに模した細長い木樽のなかで発酵させた酒である。しかも、その酒は、伝統的に、村の未婚女性が木の幹を噛んで発酵を進めるという風習がある。その酒を「別れの盃」とするのだ。村に滞在していた仲代氏は、この酒が造られる様子を見ている。そして村を去るときに、案の定、長から飲むように勧められた。これも「さすがに飲まないだろう」と思っていたが、仲代氏は「これを……飲めってか」と一瞬絶句しながらも、豪快に笑ってごくごくと一気に飲み干した。逆に、村の長が驚いているありさまだった。
カメラが回っている。仲代氏は、そんな状況をよく理解している。後で聞くと、そんな状況では「まな板の上のコイですよ」と言ってのけた。恐るべき「プロ根性」だ。
「広島ホームテレビ」HPより


