【おススメ書籍】小松成美氏著『奇跡の椅子 AppleがHIROSHIMAに出会った日』が教えてくれる「信念を持つこと」の素晴らしさ~フジテレビの経営陣に知らせたい経営者の「覚悟」
まさにいま、タイムリーなテーマの書籍に出会った。小松成美氏著の『奇跡の椅子 AppleがHIROSHIMAに出会った日』である。
小松成美氏には、ベストセラーになった『虹色のチョーク』や浜崎あゆみ氏の自伝的作品『M 愛すべき人がいて』などの名著があるが、サッカーの中田英寿氏や野球のイチロー氏、五郎丸氏などのスポーツ選手からも絶大な信頼を得てルポを上梓し、中村勘三郎氏やYOSHIKI氏、GReeeeNなどのエンターテイナーの自叙伝も数多く手がけている。私はフィールドが映像だが、同じ「ノンフィクション」というジャンルのクリエイターとして敬服している。
念願の仕事を共にすることはいまだ実現していないが、前職のテレビ局時代から、「新しい地図」の草彅剛氏の舞台に一緒に行ったり、ときどきお会いしたり、メールなどで連絡を取り合ったりするなど、プライベートでは仲良くさせてもらっている。
その小松氏が送ってきてくれたのが本書である。マルニ木工という広島の家具会社の再生と世界への挑戦を記したルポだ。
素晴らしかった。なぜ、素晴らしかったか。小松氏の取材力、文章の巧みさ、そしてその人間がその場にいるような人物描写の躍動感やリアリティなど、素晴らしい点は枚挙にいとまがないが、特に挙げるべきは以下の2点だろう。
1.創業者一族であるにも関わらず、山中家が会社の折には私財をすべて銀行に公表し、差し出したという事実とその理由が明確かつ魅力的に描かれ、その「信念」がダイレクトに伝わってくる
2.マルニ木工が100年後の未来を見据えているということが本書を通じてひしひしと伝わっていくと同時に、そういう「将来を予見する力」がいまの時代には必要なのだと教えてくれた
そして読み進めるに連れ、昨今問題になっているフジテレビの経営陣との比較に考えが及んだ。彼らに、マルニの精神を学んでほしいと率直に思った。フジの経営者、特に日枝氏は創業・鹿内家同様の存在であるにも関わらず、山中一族に比べてなんという「いさぎの悪さ」か。情けない。経営者たるもの「覚悟」と「責任」が必要なのだと改めて感じさせられた。フジテレビの経営陣は「100年後のテレビメディア」を見据えたか、その未来への道を予見したのだろうか。
そして、マルニの精神こそ私たち日本人がいま忘れかけているスピリットなのだと思った。グローバル化の世界のなかで、私たちはいま「どうあるべきか」「日本人としてどう振舞うべきか」。私たち日本人が世界で「生き残ってゆく」ためのヒントが本書とマルニ木工の何世代にもわたる挑戦に隠されている。
「信念」と「矜持」に裏付けされた「奇跡の椅子」だからこそ、Appleを魅了して、その本社「Apple Park」で数千脚も使われているのだ。
皆さんもぜひ、本書を手に取って、私が味わった感動を感じてほしい。
「文藝春秋BOOKS」HPより