【今日の新聞から】祖国に帰国したら「逮捕される」という現実を想像できますか?ー遠い新疆ウイグル自治区でおこなわれていること
今日の新聞には、中国の新疆ウイグル自治区の記事があった。新疆ウイグル自治区では2009年7月5日、イスラム系少数民族のウイグル族と中国の主流を占める漢民族が衝突した。いわゆる、「ウイグル騒乱」(「ウルムチ騒乱」とも言う)である。中国の新華社通信によると、騒乱勃発当時の死者は192名、負傷者は1,721名だというが、そんなに少なくはないだろう。私は、その前の2008年と2009年6月に新疆ウイグル自治区をドキュメンタリーの制作で訪れている。
2008年は、テレビ東京開局45周年記念イベント「恐竜2009〜砂漠の奇蹟」の展示映像の撮影のためだ。
「なぜ、恐竜のドキュメンタリーで新疆に?」と思うだろうが、新疆ウイグル自治区は都市から少し離れれば、周りは巨大なタクラマカン砂漠に覆われ、「恐竜化石の宝庫」として近年、新種の恐竜の化石が続々と発見されている。そんな現場と当時の最新トピックを紹介するために現地を訪れたのだった。
2009年6月は、テレビ東京開局45周年記念番組「役所広司が挑む 封印された三蔵法師の謎」という作品の撮影で、役所氏と現地を訪れた。三蔵法師が新疆のベデル峠という標高4,000メートルを超える難所をあえて通り、中央アジアに向かったという説を検証するためだった。
2008年の折には、現地の雰囲気も長閑で、シルクロードの交易地としての様子が垣間見られた。だが、2009年6月に訪れた際には、現地の雰囲気はガラリと変わっていた。ところどころに中国軍の基地が見られ、町中には機関銃を携えた兵士がウロウロしていた。市場では日常生活の庶民が買い物をしているが、どことなく人々の表情もこわばり、ピリピリしている感じがした。「なんだか、変だな」と思って取材を終え、帰国したとたん「ウイグル騒乱」が勃発した。そういえば、中国人のリエゾンオフィサー(中国では撮影や取材には必ずこの「リエゾンオフィサー」がつき、取材に同行する)の眼も鋭く、何かにつけ「どこに行く?」「何を撮る?」とうるさかった。市場で役所氏が一般人にインタビューするときも、「何を聞くのか?」とひつこくチェックされた。
私たちは、とても〝危険な〟状況のなかにいたのだ。
そして今日の新聞記事だが、日本に亡命したり出稼ぎに来ているウイグル族の人たちの写真が掲載されていた。だが、全部、背中で顔は映っていない。
「2度、日本に会いに来てくれた母が帰国後に強制収容所に連行された」
「家族が海外に住んでいるというだけで、逮捕される」
「両親から『帰ってくるな』と言われた」
祖国に残してきた家族や親のことが心配だろう。居ても立っても居られない。本当はすぐにでも飛んで帰りたいに違いない。帰りたくても帰れない祖国……。私はそういう境遇になったことはないが、そういう人々の気持ちを想像することはできる。
新疆ウイグル自治区ではウイグル族に対する強制労働が問題になっている。強制収容所に連行された人たちだ。彼らを働かせて何をやっているかと言えば、例えば、ソーラーパネルだ。中国はソーラーパネルの製造で大きなシェアを占めており、主原料の一つであるポリシリコンの全世界における供給量のうち推定45%をウイグル地域産が占めている。
中国産のソーラーパネルの不買運動とともに、アメリカでは2022年に「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」が施行された。
しかし、日本では、主要な太陽光パネル輸入者が未だに強制労働が関わる製品の輸入を制限していない。企業の立場から見ても、強制労働が行われている地域と取引関係を続けることは、社会的イメージを損なうリスクや経済的な損失を被るリスクが大きいだろう。このことを認識し、法律で規制されたからという受動的な対応ではなく、強制労働に加担しないための積極的な対策に乗り出すことが、企業に求められている。
と同時に、私たち庶民も企業に対する働きかけや「不買」などの行動によって、ウイグル問題に関与することはできる。
一番いけないのは「無関心」そして「無知」である。しっかりと現実を知り、その問題に関心を持つことから始めたい。
抗議デモに参加し、人民武装警察ともみ合うウイグル族女性たち
=2009年7月、中国西部、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ
(AFP時事)