【おススメドラマ】Netflix『地獄が呼んでいる』は単なるエンタメ作品ではないー「罪とは何か」「罰は誰が与えるのか」という、私たちに突きつけられる永久的な問い

Netflixで『地獄が呼んでいる』を観た。
2021年11月19日(金)にNetflixでシーズン1が解禁され、わずか公開1日目にして世界24カ国で視聴ランキング1位になった作品だ。イカゲームの記録を超えたことでも話題になった。現在は、シーズン2まで公開されている。
韓国発のこのドラマは、ジャンル的にはホラー/スリラーに分類されるが、実際にはそれ以上のものを孕んでいる。「人間の倫理」「信仰」「社会構造」などに潜む問題が複雑に絡み合い、観る者に根源的な問いを突きつけてくる作品だ。
まず、邦題について少し触れておきたい。原題は『Hellbound』、直訳すれば「地獄行き」。このタイトルの方が、作品の主題に対して遥かに直接的で、インパクトもある。にもかかわらず、邦題は『地獄が呼んでいる』。どこか曖昧で、記憶に残りにくい。なぜこのようなタイトルにしたのか。日本語のタイトル付けにありがちな“余韻”や“詩情”を狙ったのかもしれないが、作品の語りの強度に対しては、やや弱い印象を受ける。
こうした邦題の“弱さ”は、実は本作に限ったことではない。私は常々、疑問に感じている課題だ。
同じくNetflixのドキュメンタリー『Our Oceans』も、日本では『地球の海:その神秘に満ちた世界』と訳されている。原題に込められた「私たちの海」という視点や、環境との関係性を示す本質が、邦題では抽象化されてしまっている。しかもこの作品は、名作『Our Planet』の制作陣によるものであり、本来であればタイトルにも思想的な連続性が求められるはずだ。にもかかわらず、邦題は説明的な美辞麗句に寄りすぎており、語りの構造を損なっている。タイトルは『Our Oceans』のままでよかった。どうも、邦題化する際に何かしら“手を加えないと”「何も考えていない」と思われるのではないか——そんな恐れが先行しているようにしか見えない。
邦題の翻訳は、単なる言語変換ではなく、作品の語りの強度や倫理的問いをどう継承するかという選択でもある。その意味で、『地獄が呼んでいる』という邦題もまた、語りの主体を曖昧にし、作品が孕む問いの鋭さを鈍らせてしまっているように思えて、もったいないと感じた。それほど、この作品は私にとって示唆に満ちたものだったからだ。
さて、作品の概要を簡潔に整理しておこう。
ある日突然、地獄の使者が現れ、人々に「死の宣告」を与える。宣告された者は、決められた日時に地獄の使者によって“執行”される。社会は混乱し、新興宗教団体「新真理会」がこの現象を“神の意志”として解釈し、支配力を強めていく。人々は「罪とは何か」「罰は誰が与えるのか」という根源的な問いに直面する。この作品を通して私が考えたのは、以下の3点である。
1.「罪」とは誰が定義するのか
地獄の使者が現れる現象は、明確な“罪”の定義を伴わない。宣告された人々が何をしたのかは、しばしば不明瞭である。これは、現代社会における「道徳の不透明性」「正義の恣意性」を映し出している。罪が可視化されないまま罰だけが執行される世界は、倫理の根拠が揺らぐ世界でもある。
2.「罰」は誰が与えるのか
国家でも宗教でもなく、“超自然的存在”が罰を与えるという設定は、既存の権力構造を逸脱しているようでいて、実はそれを補完している。新真理会がこの現象を“神の意志”として解釈することで、罰の執行に意味を与え、現代社会における権力者支配の構造を際立たせている。罰の根拠が不明瞭であるほど、物語による正当化は強化され、語りの力が支配の装置として機能するからだ。
3.「見ること」の暴力と観衆の倫理
地獄の執行は公開され、SNSやメディアによって拡散される。人々はそれを“見る”ことで、恐怖と快楽を同時に享受する。これは、現代の視覚文化における「他者の苦しみの消費」とも言える。観衆の倫理はどこにあるのか。我々は何を“見てしまっている”のか。それは、現代のSNS社会への警鐘でもある。匿名性のもとで他者の苦悩や断罪を“観る”ことが日常化し、可視化された暴力が娯楽や正義の名のもとに消費されていく。見ることは、時に加担することでもある。『地獄が呼んでいる』は、その構造を暴きながら、観る者自身の倫理的責任を問い直してくる。
繰り返しになるが、この作品は単なるホラーではない。
それは、倫理的問いをジャンルの枠を越えて語り直す試みであり、我々自身の「罪と罰」に対する感覚を揺さぶる鏡でもある。『Hellbound』は、ホラー版『罪と罰』なのだ
「罪とは何か」「罰は誰が与えるのか」――この問いは、地獄の使者が去った後も、我々の中に残り続ける。ぜひ、多くの人に観てもらい、考えてもらいたい作品だ。

「PR TIMES」HPより

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