【おススメ映画】映画界の巨人が“生涯のベストワン”に選んだインド映画の謎――寺崎みずほ監督『佐藤忠男、映画の旅』を観て

寺崎みずほ監督映画、『佐藤忠男、映画の旅』を観た。
2022年3月に91歳で逝去した映画評論家の佐藤忠男氏は、およそ70年にわたり映画評論を続け、150冊を超える著作を残している。ライフワークとしてアジア映画を発掘し、その執筆活動と映画による国際交流の功績が認められ、2019年には文化功労者に選出されている。
映画は、「人となり」の佐藤氏を描くパートと佐藤氏が「生涯でベストワン」と言うインド映画『魔法使いのおじいさん』のパートという2つの縦軸が交差しながら進んでゆく。正直、最初はその2つが交互に現れる構成は、失礼ながら「破綻するのではないか」という不安を抱き、冷や冷やしながら見ていた。
しかし、そうではなかった。監督の寺崎氏がインドの現地に赴き、『魔法使いのおじいさん』に関わった人々を探しインタビューをしながら、「なぜ、佐藤氏がこの映画をベストワンに選んだのか」という“謎”の答えを探してゆく。その手法が細やかで、好感が持てた。
私は長年、秘境を旅し、ドキュメンタリーを制作してきた。インドにも何十回と訪れている。この映画の舞台となっているケーララ州には、残念ながら訪れたことはないが、現地の雰囲気やインド独特の空気感もよく知っている。同時に、「撮影の困難さ」「文化・風習の違い」も理解している。そういった“大変さ”を感じさせない、いや、あえて「封印した」かのような映像に驚かされた。そしてその“穏やかで”“平和そうな”空気感こそが、佐藤氏がこの映画から汲み取った「魅力」なのだと確信した。
寺崎氏は、映画『魔法使いのおじいさん』に出演していた子役の人たちを探し出し、インタビューに成功している。思い出を昨日のことのように話す人々の瞳は、キラキラと子どものように輝き、満面には喜びがあふれている。そういった「人としての生きる喜び」を隠さず表現していることを佐藤氏は「ベストワン」と評価したのだ

寺崎氏は同時に、佐藤氏の「人となり」を描き出すのにも成功している。2019年から3年にわたり亡くなるまで、カメラを回し続けた。佐藤氏の輝かしい業績には、妻・久子氏の存在が大きかったこともよく理解できた。そして何より、佐藤氏は「人が好き」なのだと感じた。映画を批評することで、その映画に関わる人を育ててきたのだ。その功績は大きい。

佐藤忠男氏に関しては、私にも懐かしい記憶がある。
WOWOWのドキュメンタリー、ノンフィクションW『阪東妻三郎 発掘されたフィルムの謎~世界進出の夢と野望(2015年9月放送)』を作っていたとき、佐藤氏に教えを乞い、「その時代におけるバンツマの先進性」についてインタビューをもらったことがある。佐藤氏は、駅前の喫茶店まで来てくれ、初めて会った私に、親切過ぎるほど丁寧な説明をしてくれた。そのとき「なんて、面倒見のいい人なんだ!」と心から感激したことを思い出した。当時はまだ、日本映画大学の学長だった。
また、私が所属する日本映像学会のアジア映画研究会に参加した際に、大学の教室にひょいと現れ、教室の片隅で懸命にメモを取る佐藤氏と再会した際には、その気さくで飾らない雰囲気や物腰に感服した記憶がある。
最後に流れる佐藤氏のインタビュー。言葉を選び、噛み締めるように語る佐藤氏……すぐに言葉が出ないのはなぜなのか……だが、寺崎氏はよく待った。こういうところからも、2人の人間関係が創り出した作品だということがよくわかる。
佐藤氏は、日本映画大学時代の寺崎氏の恩師だという。そして、寺崎氏は、日本映画大学に入学する前に本学・桜美林大学を卒業している。不思議な縁を感じた。ぜひ、近いうちに直接話を聞いてみたい。

この映画は、佐藤忠男という“映画を通して人を愛した人”の人生を、静かな熱で丁寧に掬い上げている。観終わったあと、私は久しぶりに「誰かに映画について語りたくなる」感覚を味わった。

「映画.com」より

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