【おススメ書籍】窪美澄著『ふがいない僕は空を見た』はこちらが恥ずかしくなるほど赤裸々な青春小説かと思いきや……
窪美澄著『ふがいない僕は空を見た』を読んだ。
山本周五郎賞受賞作品だ。
ここまでセックスに対する考え方を赤裸々に描いたものがあっただろうか。それは文字の世界ではある種の限界があり、タブー視されるところもあったのではないだろうか。
「自分の好きな人が自分のすぐそばで自分じゃない誰かとセックスしているのを想像するのはつらい」はまだしも、「鼻先にセックスっていうニンジンをぶら下げられながら走るしかないときがあるんだ。特に男の子は」はかなり刺激的な表現だ。
しかし、こういった一見「ジェンダー・バイアス」的な表現を「?」と思う感覚こそが、実はすでにバイアスに陥っているのではないかと感じさせられた。自分の料簡の狭さ、許容のなさを突き付けられるようで、こころが痛かったからだ。
そしてこの小説が女性作家によって書かれたということで、その意義は数倍にも膨れ上がる。
それぞれが独立した短編かと思わせられる5つの連作は、すべてつながっている。巧妙にそして見事に視点や視座を変えて描かれる心理描写がこころをえぐる。
最後の母親からの視点は、「母であって母でない」女性としての視点に帰着しており、生まれた子どもが業を背負いながら生き、そして再び母体に戻ってゆくような不思議な感覚に襲われた。
よく計算された小説だ。舌を巻いた。
興味がある方は読んでみてほしい。おススメだ。
こういう見事な小説は、映像化された作品を観るのが怖い。きっと、私は観ないだろう。