【今日のタブチ】「なりたい職業ランキング」が示す子どもの職業観――教員不足の時代に教員が1位?その理由と“見えない”現実

日本人はランキングが好きだ。
食べ物、観光地、芸能人、そして職業。序列をつけることで安心感を得る文化があるのだろう。実際、雑誌やテレビ番組、ネット記事でも「ランキング」は定番コンテンツだ。順位をつけることで「正解」を提示し、選択に迷う不安を減らす心理が働いている。
一方、欧米ではランキングよりも「キャリアパス」「自己実現」を重視する調査が多い。人気職業の調査も、日本のように順位を並べるより、スキルや市場価値を評価する傾向が強い。ここに国民性の違いがある。

今回取り上げるのはベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所が共同で実施した「なりたい職業」調査。東大との共同という点で信頼性は高い。2024年の結果を見て、正直驚いた。
中学生も高校生も1位は「教員」。この事実は重い。教員不足が叫ばれる現実と、子どもたちの憧れとのギャップ。なぜこうなるのか。身近な存在であること、資格職への安心感、社会貢献のイメージ。そうした要素が背景にあるのだろう。しかもこの傾向は過去10年ほぼ変わっていない。2015年から2024年まで、中高生のトップはずっと「教員」だ。
小学生のランキングも興味深い。1位はプロスポーツ選手だが、3位に教員が入っている。4位にはYouTuberやVTuberが顔を出す。時代の空気を感じる一方で、5位には医師が入っている。中高生でも医師は3位。さらに高校生ではSE・プログラマーが急上昇している。IT社会の影響がここに現れている。
もう一つ見逃せないのは「保育士・幼稚園教員」が中高生の5位に入っていること。教育関連職が複数ランクインしているのは特徴的だ。教員不足が問題視される中で、子どもたちは教育の現場に憧れを抱いている。理想と現実の乖離がここにある
なぜこの乖離が生まれるのか。子どもにとって教員は毎日接する身近な存在で、社会的に価値ある仕事というイメージが強い。しかし現実の教員は長時間労働や精神的負担に苦しみ、待遇も決して高くない。人気があるのに採用倍率が下がるのは、この現場の厳しさが就職段階でネックになるためだ。YouTuberやVTuberも同様で、華やかな部分だけが見えている。理想は「やりがい」と「安定」だが、現実は「過酷な労働」と「不安定な収入」。このギャップが子どもの夢と社会の構造の間に横たわっている
海外と比較すると違いが際立つ。アメリカでは医療系が圧倒的に強い。循環器専門医、麻酔科医、外科医、歯科医がトップを占め、航空パイロットやCEOも人気だ。IT関連ではソフトウェア開発者や情報セキュリティアナリストが急成長職種として注目されている。一方、ヨーロッパでは医療とITが二大柱。加えて経営幹部や法務・財務職が高収入で人気だ。ランキング文化よりも「スキル市場価値」を重視する傾向が強い

日本は「安定」「資格」「序列」を好む文化が強い。欧米は「市場価値」「キャリアパス」「自己実現」を重視する。ここに国民性の違いがある。
この調査は子どもの夢を映す鏡であると同時に、社会の課題を映し出す。教員人気は教育の価値を示すが、現場の労働環境改善は急務だ。YouTuberやIT職の台頭は時代の変化を示すが、根強い医師や教員人気は安定志向の強さを物語る。ランキングを眺めるだけではなく、その裏にある現実を見なければならない。

「東洋経済オンライン」より

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