【今日のタブチ】この国の技術は、大自然3.8億年のR&Dにまだ勝てない――「まねする力」の“意外すぎる”正体

人間はなぜか「技術は自然を超えた」と思い込みたがる。
最近では、この“自然の知恵をまねる技術”に「バイオミメティクス」という名前までつけて、それは世界中のトレンドになりつつある。
「バイオミメティクス」は、「バイオ(生き物)」と「ミメティクス(まねる、模倣する)」を合わせた言葉で、生き物のしくみをそのまま技術に活かす考え方だ。
ただ、こうして言葉ができたから新しいわけじゃない。むしろ現実は逆で、困ったときほど人間は自然に“白旗”を上げて解決策をもらってきた。しかも、その先生方は3.8億年かけて改良を続けてきた生き物たちだ
新幹線の先頭がカワセミのくちばしを真似して静かになった話や、蚊の針をヒントに“痛くない注射針”ができた話は有名だけど、本当に面白いのはこの先にある、もっと意外で、もっと環境負荷を下げる大本命たちだ。

海の底で木材を食べるフナクイムシは、穴が潰れないように壁を固めながら前に進む習性がある。この“掘る+固める”を同時にこなす技が、そのままシールドトンネル工法の原点になった。都市インフラの象徴のようなトンネルが、実は海の小さな生き物の食べ方に学んでいるという事実は、初めて知るとだいたい驚かれる。
サメ肌もすごい。表面の細かな凹凸パターンのせいで、菌がそもそも付着しにくい。薬剤で殺すのではなく、“くっつけない”というアプローチ。病院の手すりや医療器具の表面に使われ始めていて、抗菌剤まみれの世界からそっと抜け出すヒントになっている。
嫌われ者なのに技術的には頼もしすぎるのがゴキブリだ。体をペシャンと薄くして狭い隙間を通り抜けても、またサッと走り出す。この構造をロボットに移植したら、倒壊した建物の奥に入って生存者の気配を探る“先遣隊ロボ”になった。見たくはないけれど、いないと困る存在という妙な立ち位置だ。
アリはアリで、最短ルートを群れで自動的に見つける天才。その仕組みをアルゴリズムにすると、物流倉庫や配送トラックのルート最適化に使え、距離も燃料もCO₂もまるごと減らせる。人間が頭を抱えている最適化問題を、自然界は毎日淡々と解いている。
夜のハンター・フクロウの“無音飛行”も技術者の宝だ。羽根のフチのギザギザをファンの羽根に真似すると、音が劇的に小さくなり、効率も上がって電力まで減る。EVの冷却や空調の「ブオオオ」という音が消える未来が見えてくる。
巨大なくせにクイッと曲がるザトウクジラのヒレには、小さな“コブ”が並んでいる。これを風車の羽根に移植すると、弱い風でも回りやすく、失速しにくく、騒音も減らせる。再エネの弱点をまとめて潰す一手になりうる。
ヤモリの足裏は、粘着剤いらずでペタッとくっつき、跡も残らず何度でも使える。これを真似した接着素材は、医療用パッドやロボットの把持技術に応用され、ゴミを出さない“貼る・剥がす”の仕組みとして静かに革命を起こしている。
そして極めつけはサボテン。雨のほとんど降らない乾燥地で、空気中の霧を集めて水に変えてしまう。棘の形状や表面の性質、角度の絶妙なバランスで水を根元に導く仕組みだ。これを人工的に再現すると、災害時や電気のない地域で“空気から飲み水を作る装置”になる。未来感しかないのに、すでに現実に近い。

こうして見てみると、自然はすでにあらゆる問題を解いていて、人間はそれを“探して真似しているだけ”だということが分かる。そして、生物が減れば、その知恵も永遠に失われる。環境を守るのは情緒的な話ではなく、技術の源泉を守るという話でもある。自然は敵でも障害でもなく、最強の設計パートナーだ。

地球の3.8億年に及ぶR&D部門(研究開発、Research & Development)は、今日も静かに答えを持っている。人間はそこから何を学び、どう生かすのか。環境負荷やSDGsの課題をどう乗り越えるかは、案外この“自然のカンニング”にかかっているのかもしれない。

「C-PRESS WEB」より

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