【今日のタブチ】なぜ今「2時間サスペンス」なのか――テレビから消えたジャンルが、映画館で“復活”を狙うワケ

ホリプロが、昭和・平成の時代に民放テレビ局で盛んに作られていた「2時間サスペンスドラマ」のテイストを汲んだ映画シリーズ「2時間サスペンス THE MOVIE」を制作するという。

日本のテレビドラマ文化を象徴するジャンルとして、多くの視聴者を魅了してきた2時間サスペンス。私も過去に、30代のころに古谷一行氏主演の『みちのく祭り殺人行』(2001年8月放送)や、斉藤由貴氏主演の『江戸小紋殺人事件』(2001年9月放送)を手がけ、50代後半には松下由樹氏主演の『当番弁護士 梶原藤子の事件ファイル』(2020年6月放送)、さらに続編の『当番弁護士 梶原藤子の事件ファイル~鬼子母神の女』(2021年10月放送)をプロデュースしてきた。

しかし、2時間ドラマは今では地上波からすっかりその姿を消した。その理由は大きく二つある。
一つ目は視聴ターゲットの問題だ。2時間サスペンスは視聴率自体はそこそこ取れるものの、視聴者層は高齢寄りになりがちで、生活必需品、自動車、住宅、金融、家電など、広告主が重視する購買力の高い層、いわゆるU46(13歳〜46歳、30代・40代以下の若年層)とはズレが生じている。地上波による広告費収入が激減するなか、マーケティング指標としての「コア視聴率」はますます重視され、その層への訴求力が弱いジャンルは編成上、厳しい判断を迫られる。
二つ目は配信の影響だ。地上波放送後の二次利用として番組を配信に回そうとしても、1本や2本では収益性が低い。2時間サスペンスは基本的に一話完結の単発ドラマであるため、複数話を束ねて配信することが難しく、配信の特性である「まとめ視聴」にもつながりにくい。結果として需要が伸びない。
だが、その反面、2時間サスペンスドラマには根強いファンがいる。再放送をすると、意外なほど数字を取ることも珍しくない。私がフジテレビで「ザ・ノンフィクション」を担当していた頃、同時間帯の日曜午後にテレビ東京が「女と愛とミステリー」の再放送をよく編成していて、フジの局プロデューサーが「テレ東のサスペンスは強敵だ」とぼやいていたのを思い出す。

こうした事情と歴史を踏まえて企画されたのが、ホリプロ制作の「2時間サスペンス THE MOVIE」である。隆盛を極めたサスペンスドラマの新たな可能性を、テレビではなく映画館という舞台で届けたいという発想は、率直に言って見事だ。
「灯を消さないためには新作が必要。テレビが難しいなら、映画でやる」
この企画について、ホリプロ社長の菅井敦氏はそう語っているが、その言葉どおりの覚悟を感じる。

もっとも、大手プロダクションのトップである以上、心意気やノスタルジーだけで物事が成功するほど甘くはない。だが私は、菅井氏には勝算があると見ている。そのポイントは二つある。
一つは、ホリプロが抱える芳醇な俳優層だ。「2時間サスペンス THE MOVIE」第一弾『テレビショッピングの女王 青池春香の事件チャンネル』の主演は名取裕子氏。第二弾の主演は、「2時間ドラマの帝王」と呼ばれる船越英一郎氏である。両者ともホリプログループ所属。さらに言えば、「2時間ドラマの女王」と称されてきた片平なぎさ氏もホリプロ所属だ。2時間ドラマを長年見てきた視聴者にとって、これ以上ないほど“顔が見える”キャスティングが可能なのは、大きなアドバンテージだ。
もう一つは、ホリプロが自前の制作部門を持っていることだ。菅井氏自身、多くのタレントや俳優のマネージャーを務め、制作現場を叩き上げで経験してきた人物で、ドラマ制作部門を長年率いてきた。自社で制作すれば著作権は確保できる。再上映や配信展開のたびに収益が積み上がる構造を作れる点は、極めて現実的で強い。自社のタレントを起用し、自社で資金を投じ、自社で作品を持つ。その循環を回せるのがホリプロの強みだ。
しかし、私が最も着目しているのは菅井氏の手腕だ。
本シリーズは従来の映画の製作委員会方式に加え、BS日本(BS日テレ)日本映画放送が“アライアンス”として参画する設計。報道によれば、幹事と制作・配給を担うのはホリプロ。共同配給には、全国に約100館のイオンシネマを展開するイオンエンターテイメントが名を連ねる。二次利用業務の窓口は、映画・テレビ番組のパッケージ販売や放送権ビジネスを長年手がけてきたミツウロコが担う。さらに、コンテンツの事業設計や権利ビジネスの開発支援を専門とするTK事業開発研究所がプロジェクトを補完するかたちで、体制の骨子を盤石に組んでいる。この仕掛けを作り出したのは、菅井氏に違いない。

この企画の本質は、単なる「2時間サスペンスの映画化」ではない。むしろ、映画館という空間を、もう一度“安心して身を委ねられる物語”を体験する場として再定義する試みだと私は見ている。配信ではなく、テレビでもなく、わざわざ足を運んで観る2時間サスペンス。内容はある程度想像がつく。だが、その予定調和を楽しみに行く観客が確実に存在する。
地上波では「コア視聴率が取れない」と切り捨てられてきた層が、映画館ビジネスにおいては、時間とお金を持つ優良な観客層に転じる可能性もある。平日昼間の上映を埋められるコンテンツとしても、映画館側にとって無視できない存在になるかもしれない。

流行だから作るのではない。残すべき灯だと思うから作る。その判断が、映画館という暗闇のなかで、どんな光を放つのか。2時間サスペンスというジャンルの、その「その後」を、私は楽しみにしている。

「映画.com」より

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