【今日のタブチ】慶應義塾ワグネルの《マーラー交響曲第5番》──“死から生”のドラマに圧倒された夜

昨晩は、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラ第247回定期演奏会に行ってきた。土砂降りの雨という悪天候にもかかわらず、サントリーホール大ホールの収容数2000人余りはほぼ満席だった。さすがだ。
そして肝心の演奏だが、これが文句なしの「ブラボー」だった。
プログラムは、前半が、ウェーバーの歌劇「魔弾の射手」序曲(11分)R・シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」(20分)、そして休憩を挟んで、後半は、マーラーの交響曲第5番(75分)だった。
75分とプログラムで見て、「え、長い……」と思ったが、なんのその。あまりの素晴らしさに、“意外なほど”あっという間の75分だったのだ。
見事な5楽章3部構成で、トランペットの運命的なファンファーレで幕を開ける。葬送行進曲のような暗く重苦しい始まりが、そのあとの期待感へとつながってゆく。前半の暗鬱な世界観が、第5楽章の壮大な歓喜へと向かって変化する。
それらの“劇的な変化”こそ、まさに「人生」そのものだと感じた。ひとりの人物の「死から生へ」のドラマを描いたような内容だった。映像が目に浮かび、だから時間が過ぎるのが早く感じられたのだ。
しかし、75分も指揮をしたり、演奏をぶっ続けというのは、すごい“集中力”だ。

そして学生たちの演奏も素晴らしいが、指揮も特に素晴らしかった。
指揮は、ワグネルの常任指揮者である川本貢司氏。さすが、「音の魔術師」と言われるゆえんである。私の席は上手の2階席だったので、川本氏の表情までうかがえる。あるときは苦悩に満ちた表情で指揮棒を振り、次の瞬間にはその指揮棒をかなぐり捨て、両手を広げて喜びを表す。まるで、舞台演劇を観ているかのような錯覚に陥った。
学生の演奏のことに触れておかなければならない。
まずは、75分の楽曲を演奏しきることに拍手喝さいを送りたいが、演奏全体に初々しさがあり、その初々しさがむしろ「生と死」「明と暗」を際立たせていた。しかし、この75分間の緊張は半端ないだろうと思う。私の席からは学生の表情がよく観える。その表情からは「緊張」の気配がひしひしと伝わってきた。
東京地区でおこなう定期演奏会は年3回ほど。それに加え、京都から福岡までを回る長期の地方公演もある。大学4年間に経験する、およそ16回の「緊張」は彼らを大きくすることだろう。
演奏が始まる前に、塾長の伊藤公平氏が挨拶で触れていた話が強く印象に残っている。ワグネルが創立された1901年は、福沢諭吉氏が亡くなった年でもあるという。「もう塾を続けていけないのではないか」と誰もが嘆いていたそのときに、ワグネルが声高らかに産声を上げた──その事実を聞き、いま目の前で音を鳴らしている彼らの姿と重なった。125周年を迎えようとしている“伝統の緊張”というものが、確かにそこにあった。
次回は、6月13日㈯昼公演の「第248回定期演奏会」。キンボー・イシイ氏を指揮者として招聘しておこなわれる。
次の“緊張と歓喜”がどんな景色を見せてくれるのか、いまから楽しみだ。

「慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラ公式HP」より

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