【今日のタブチ】教育のデジタル化「GIGAスクール構想」に危惧を抱く:子どもへの「負の影響」は甚大だ~本学・桜美林大学の授業で私が伝えていることとは?

文部科学省は2019年に「GIGAスクール構想」と名付け、「すべての子どもに個別最適化された学びを保障するためのICT環境整備」を目的とした教育改革を国家的プロジェクトとして打ち出した。GIGAは「Global and Innovation Gateway for All」の略で、「すべての子どもたちに革新的な学びの扉を開く」という理念が込められている。
この柱は3つあり、1つ目は、2021年度末までに全国の公立小中学校で学習用端末(PCやタブレット)を配備完了するというものだった。高校にも段階的に拡大中で、これは「NEXT GIGA構想」と呼ばれている。2つ目は、高速かつ大容量の校内LANやWi-Fiの整備を進め、どの教室でも安定したネット接続を実現するということ。2025年時点で、普通教室の97.8%がインターネット接続済みだという。3つ目は、Google WorkspaceやMicrosoft 365などのクラウドサービスを活用し、デジタルドリルやAI型教材(Qubena、MEXCBTなど)で個別学習を支援するというものだ。
以上を聞くと「どれも素晴らしい構想だ!」と思うだろうが、私は手放しで喜べない。それは、子どもの理解度や興味に応じた個別最適化された学習が可能になったり、オンラインホワイトボードやチャットで意見交換ができるため協働的な学びの促進が図れるという点、教員の働き方改革においては優れているが、それ以上に「負の影響」を懸念するからだ
特に、子どもたちの発達や社会性に深刻な影響を及ぼす可能性も多く指摘されていることには大きな危惧を抱いている。
OECD(経済協力開発機構)によって2018年に世界79の国と地域で実施された国際的な学習到達度調査「PISA(Programme for International Student Assessment)」において、日本の生徒は学校でのICT活用時間がOECD加盟国中最下位である一方、家庭ではチャットやゲームに偏った利用が最多という二極化が報告されている。「コンピュータを使って宿題をする」頻度もOECD最下位であり、学習目的でのICT活用が十分に根付いていない現状が浮き彫りになっている。
また、教員側の対応についても、ICT活用に自信を持つ教員の割合はOECD平均の約半分にとどまり、ICT指導力の格差が教育の質に影響を与えていることは明らかだ。そのため一概に教員の「働き方改革」に役立っているとは言い切れない。

以下に、主な負の影響を分析的に整理したい。論点は5つある。
1.認知・学習能力への影響・・・思考力・集中力の低下、記憶定着の浅化
上記の「PISA2018」や国内調査では、ICT使用時間が長いほど「自分の頭で考える力」が低下する傾向があると報告されている。また、紙媒体に比べ、デジタル教材では情報の記憶保持が弱くなるという研究もある。スクロール中心の閲覧は、空間的記憶の形成を妨げるためだ。2. デジタル依存と精神的影響・・・依存傾向と衝動性の増加、自制心の発達阻害
タブレットに過度に依存した子どもが、取り上げられた際に暴力的な行動をとる事例も報告されている。これは「報酬系」依存症の症状と類似しており、過剰に刺激された脳の反応と考えらる。スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン氏は、デジタル機器の過剰使用が「報酬の先延ばし能力(自制心)」を弱めると警鐘を鳴らしている。
3.健康・身体的影響・・・視力低下・ドライアイ睡眠障害
長時間の画面注視により、まばたきが減少し、眼精疲労やドライアイを引き起こすリスクが高まる。就寝前のブルーライト曝露は、メラトニン分泌を抑制し、入眠困難や睡眠の質の低下を招く、など子どもの身体に大きな負荷がかかる。
4.社会性・人間関係の希薄化・・・対人コミュニケーションの減少、身体性の欠如
デジタル学習の進展により、協働的な学びや対話の機会が減少し、社会性の発達に影響を及ぼす可能性がある。手を動かして書く、作るといった身体的な学びが減少し、創造性や感覚統合の発達が阻害される可能性がある。
5.教育格差の拡大・・・デジタル環境の地域差・家庭差
通信環境や保護者のITリテラシーの差が、学習機会の不平等を生み出している。これは「デジタル格差」として深刻な社会課題である。
私は本学・桜美林大学の授業で心がけていることがある。「考えることをとめるな」ということを伝えるということだ。
デジタル教育は、子どもたちに「考えること」をやめさせてしまう。PCを使ってもいい。検索してもいい。AIに聞いてもいい。だが、その前にいったん「自分の頭で考えてほしい」と伝えている。また、一度考えたことをそこでやめるのではなく、「本当にこれが正しいのかな」「もっと違う考え方はないのかな」「違う視点で見てみたらどうなるかな」と考えを進めてほしいと教えている。その癖がつくと、ネットやSNSが提示する答えも、「それでいいのか?」と考えられるようになるだろう。
いずれにしても、これらの課題は単なる技術的問題ではなく、子どもの人間形成に関わる本質的な問いだ。私たち大人が全力で取り組まなければならない。

「ソフトバンクニュース」HPより

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