【今日のタブチ】最高裁が突きつけたトランプ関税「違法」の一撃――正義の女神テミスが導いた“逆転劇”と、その先に潜む“抜け道”とは?
アメリカ最高裁が、貿易赤字の解消などを理由に各国・各地域に発動した相互関税、通称「トランプ関税」を違法と判断した。6対3。この数字は大きい。
保守6・リベラル3という判事の構成の中で、しかもトランプ自身が指名したゴーサッチとバレット、そして保守派の中心にいるロバーツ長官までもが、トランプの関税拡大に“ノー”を突きつけた。正義の女神テミスの天秤が、まだこの国では傾き切っていないことを示す瞬間だ。
「アメリカは民主主義の地に落ちた」とまで揶揄される現状の中で、私はここに、政治ではなく「法」に立脚した判断がまだ生きているという希望を見た。大統領自身が選んだ判事が、その大統領の越権を正面から否定したという事実は重い。
今回の判決の核は、「非常時の権限を理由に、ほぼ全輸入品へ一律の上乗せ関税を課すことは許されない」というごく真っ当な線引きだ。トランプはIEEPA(国際緊急経済権限法)という緊急時の法律を使って、相互関税という名の大規模な上乗せを押し通してきた。しかし最高裁は明確に、IEEPAは“輸入規制”の権限を与えても、“課税権”までは認めていないと断じた。単純に言えば、「緊急事態だからといって何でもアリではない」という当然の話だ。
さらには、「同法に基づいて関税を発動する権限は、大統領には認められていない」と一刀両断に言い切った。爽快である。
興味深いのは、この判決を受けた直後のトランプの反応だ。
判決を「恥ずべき」と批判し、すぐに通商法122条を持ち出し「新たに10%のグローバル関税を課す」と宣言した。しかし、この10%は150日間という時限つきの措置にすぎず、本来のIEEPA版のように“自由に振り回せる武器”ではない。強気に見えても、効果は続かない。
さらに厄介なのは、“違法”と判断された関税の返還問題だ。
すでに徴収されている関税は1500億〜1700億ドル規模ともされ、企業は返金を求めて動き出すだろう。トランプ大統領の「違法」判決に反対したカバノー判事が、返還手続きは “mess(混乱)になる” と指摘しているように、返還手続きは長期化し、税関・下級審・企業の会計処理を巻き込みながら混乱が広がる可能性が高い。判決そのものより、この“後処理”のほうがはるかに現実への影響が大きい。
では、トランプは次にどう動くか。
IEEPAという“面”で一気に押し込む関税手法は最高裁に封じられた。しかし、彼の手元にはまだ別のカードが残っている。たとえば、特定の産業や品目を「安全保障」名目で狙い撃ちできる仕組みや、貿易上の不公正を理由に特定国だけに追加関税をかけられる仕組みは、今回の判決とは無関係で生きている。
つまり、これからのトランプは、広く一律に関税をかけるのではなく、“狙い撃ち(ピンポイント)”で圧力をかけるやり方に切り替えてくる可能性が高い。
さらに、形式上は関税ではなくても、実際には輸入量を絞ったり、相手国と小さな“個別取引”を積み重ねて実質的な制限をかける方法もある。数量割当や“ミニ合意”と呼ばれるこうした手法は、法律の網目をすり抜けながら、関税と同じ効果を持つ。
要するに、正面の扉を閉じられても、横の小さな扉や裏口を使って入り込むことができるような“こざかしい”政策を続けていく、ということだ。
今回の最高裁判決は、確かに大きな節目だ。しかし、ここで全てが終わるわけではない。むしろ、これから何が起きるかが重要だ。返還の混乱、新たな10%の期限付き関税、そして残された複数の関税ツール。これらが複雑に絡みながら、次の流れが形づくられていく。
「違法」という一言は痛烈だが、政策の終わりを意味しない。
正義の一撃はたしかに入った。しかもその一撃を放ったのは、トランプ自身が任命した判事たちの側だった。しかし、権力側は必ず次のカードを切る。私はこの“その後”を見届けたい。
今回の判決で示された司法の矜持と、それにどう政治が応じるか。その構図こそが本質だからだ。
「TBS NEWS DIG」より

