【今日のタブチ】黙祷…長嶋茂雄氏~「ミスタープロ野球」が嘆いていないか~スポーツとメディアの〝不健全な〟関係

多くのメディアで「ひとつの時代が終わった」と評せられているように、まさにそう実感している。それは、私の人生と長嶋茂雄氏の活躍が合致するからだ。王貞治氏との「ON」コンビで世間を沸かせたのは、私が生まれた1964年直後の1965年だ。この年から9年連続日本一を達成、首位打者6度、本塁打王2度、打点王5度、MVP5度など、長嶋氏のピークの時代が続く。
野球が国民的なスポーツとしての地位を獲得した背景には、メディアの発展がある。同じようにほかのスポーツにおいても、戦後の高度経済成長のなかで、スポーツとメディアは相互に協力しあいながら発展してきた。まさにWin-Winの関係であった。
三振しても豪快に空振り。オーバーアクションでボールを取る。常に観客とメディアを意識したプレーをしてきた長嶋氏。持ち前の明るさもあって、そういったプレーは、家庭用テレビの普及などと重なった。長嶋氏の言葉で印象的なものがある。
「マスコミの後ろには、ファンがいる」
メディア、特にテレビを常に強く意識したスポーツ人は、長嶋氏を置いてほかにはいないだろう。それだけに、スポーツとメディアの相互発展を一番喜んでいたのも、長嶋氏だと言える。
そんな長嶋氏の逝去を悼んで、私はある提言をおこないたい。
それは、いまスポーツとメディア、特にテレビは健全な関係を築けているだろうかということだ。
テレビのバラエティ番組がスポーツ選手を取り込む傾向は、スポーツ選手が「タレント化」し、競技そのものよりもエンターテイメント性が重視されるケースも増えている。これは視聴率を意識したメディア戦略の一環だが、スポーツの本質を損なう可能性も指摘されている。このように、メディアがスポーツを利用しようとするケースが散見される。大きく2点を指摘したい。
1.バレーボール・ワールドカップに生まれてきた「歪み」
ワールドカップバレーは、フジテレビが長年にわたり独占放送を続け、日本国内でのバレーボール人気を支えてきた。特に、1977年以降は日本での恒久開催が続き、フジテレビの中継が大会の認知度向上に大きく貢献し、バレーボールの発展とバレーボール人口の増加に寄与してきた。
しかし、近年では「スポーツの純粋な競技性」と「メディアの商業的な戦略」のバランスが問われる場面も増えている。例えば、フジテレビの放送では、試合そのものよりも演出や選手の個人的なストーリーに焦点を当てる傾向があり、これが競技の本質を損なうのではないかという議論がある。
また、ワールドカップバレーが日本で恒久開催されていることや、日本代表が必ず出場することについては、長年議論の的になっている。そもそも1977年以降、日本での開催が続いているのは、フジテレビと国際バレーボール連盟(FIVB)の関係が深く、日本市場の重要性が高いことが背景にある。
実は、日本代表が毎回出場できるのは、開催国枠があるためだ。これは視聴率やスポンサーの関心を高めるための戦略とも言われている。しかし、これが「公平性」に欠けるのではないかという批判がある。特に、他国のチームが予選を勝ち抜いて出場権を得るのに対し、日本は開催国枠で自動的に出場できるため、競技の純粋性が損なわれるという意見もある。FIVBは2019年に日本開催の見直しを発表し、世界選手権のように公募制で開催国を決定する方針を示した。さらに、2020年にはワールドカップバレーの廃止が決定され、代わりにオリンピック予選大会が設定されることになった。これによって、従来のワールドカップのような日本開催の固定化がなくなって、より公平な形で大会が運営される可能性が高まっているが、これまで一国や一局が独占していた「既得権益」の歴史は消せない。
2.テレビ放送の都合に合わせたルール改正
これは、スポーツの競技性よりも視聴率やスポンサーの意向を優先するかたちでおこなわれることがあり、バレーボールやラグビーにその影響が見られる。
かつてバレーボールは15点制だったが、ラリー制の導入により25点制に変更された。これは試合時間を一定に保ち、テレビ放送の枠に収めるための戦略である。また、テレビの広告枠を確保するために技術的タイムアウトを導入した。これによって、試合の流れが途切れることが増え、選手のリズムが乱れるという批判がある。競技をする選手を優先することなく、テレビ放送の都合でスポーツのルールを変えたことになる。本末転倒も甚だしい。
ラグビーでも同様に、テレビ放送の都合に合わせてハーフタイムの時間が調整されるなど、テレビ主体の運用がおこなわれるようになっている。
何のためのテレビ放送か、改めて考える必要があるだろう。「マネタイズ」のためなのか。
天国のミスターを嘆かせるようなことがあってはならない。

「日テレNEWS NNN」より

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