【今日のタブチ】2025年の年の瀬に考える「死」――終活と棺おけ作家、世界の《死生観》(チベット仏教・古代エジプトのミイラ・シャーマン)
年の瀬に、しんみりと「死」について考えてみたい。
今年は、私にとって、私の人生にとって、とても大切な二人の方が亡くなった。2月には、アルファエージェンシー社長の万代博実氏。そして11月には、俳優の仲代達矢氏だ。お二人の逝去についてはこのブログでも記したので、ここでは省く。
そんなこともあって、最近「死」について考えることが多くなった。年齢もあるだろうが、気がつくと「俺はいつ死ぬんだろうな」とか考えている自分がいる。柄にもなく、大したことない自分の遺産をどう家族に相続するかということを考えてみたりとか、「終活」のようなことも始めた。
そんな思いがあるせいか、今朝の新聞の棺(ひつぎ)に関する記事に目を引かれた。人生の最後に入る棺。多くの葬儀では、質素な印象の木棺が用いられているが、最近は「自分らしさ」を重視して、オリジナルのデザインをあしらった棺を作る人もいるという。
棺おけ作家という職業もあるとは知らなかった。布施美佳子氏は、ホラー漫画家の伊藤潤二氏とコラボしたり、デヴィ夫人の求めに応じたりして、制作を手掛け、入棺体験のワークショップなども開いている。自らの死を疑似体験できるということで、人気があるらしい。
布施氏のコメントに、注目した。
「死は日常の延長にあり、自分自身のもの。カジュアルな気持ちで好きな棺に入り、死を客観視することを通じて『ハッピーエンディング』を思い描いてほしい」
「ハッピーエンディング」……素敵な言葉だ。
ふと、よく仕事で訪れていた秘境の死生観を思い起こした。まず頭に浮かんだのは、チベット仏教だ。
チベット仏教では、死は恐ろしいものではない。むしろ、輪廻転生の一過程として捉えられる。六道輪廻――人間、天、畜生、餓鬼、修羅、地獄――を巡りながら、魂は学びを重ね、悟りに近づいていく。死は終わりではなく、次の生への移行だという考え方だ。この思想に触れた経験が、今の「死を考える」という行動につながっているのかもしれない。
もうひとつは、エジプトで知った死生観だ。古代エジプトでは、死は“永遠の旅”の始まりとされ、死後の世界で生きるために、肉体をミイラとして残す文化があった。棺には、船の形をしているものもある。これは、死者が来世へ航海するという象徴であり、死を恐れるより、死後の生活を準備するという発想がそこにある。
さらに、インドネシア・メンタワイ諸島のシベルト島でシャーマンを取材したときのことも忘れられない。メンタワイ族はアニミズムに基づく精霊信仰「アラト・サブルンガン」を信じ、木や石、風や水といった自然のすべてに魂が宿ると考えている。死者の魂もまた、森や川の精霊として存在し続ける。私は長屋(ウマ)で行われる「プネン」という儀式を撮影した。シャーマン(シケレイ)が歌い、踊り、精霊と交信しながら、死者の魂を自然へと送り出す――その光景に触れたとき、私は「死を恐れるより、いまをどう生きるか」という思いを強くした。
年の瀬に、そんなことを思い出した。
あなたは、どんな「ハッピーエンディング」を思い描くだろうか。
「PR TIMES公式SNS」より
布施美佳子氏×伊藤潤二氏コラボ棺

