【今日のタブチ】Netflixネトフリがワーナー“買収”の衝撃――次の「獲物」はスポーツ?巨大化する《配信ビジネス》
今朝、驚いた。
NetflixがWarner Bros.(Warner Bros. Discoveryのスタジオ+HBO/HBO Max)を買収する“正式合意”を発表した。取引総額は負債込みで約8,270億ドル、株式評価で7,200億ドル規模。完了はWBD側の「Discovery Global(CNN、TNT、TBSなど)」分離後、12〜18か月を見込むという。HBOの看板、100年分のワーナーの映画資産、DC、ハリー・ポッター、ソプラノズやGOTまでを、ネトフリが抱き込む構図だ。これが今の「配信覇権」の終着駅ではなく次の戦争の始まりだと、強く感じている。
この案件は、いきなり降って湧いた話ではない。
ここ数週間、Paramount Skydance(エリソン)やComcast(NBCU)も入札に走った。なかでもParamountは「全部買う」フル会社案で猛プッシュしたが、WBDの売却プロセスがNetflixに“傾いている”と弁護士書簡まで投げて、火花が散っていた。Comcastはスタジオ+配信の塊狙い、Netflixは「スタジオとHBO/Maxだけ」を現金主体で叩きにきた――そういう競りだ。結果として、WBDは“まずネットワーク切り離し→ワーナー本体はネトフリへ”のルートで着地させた。
狙いは明快だ。
ネトフリは「自社オリジナル+世界規模の会員基盤」に、ワーナーの“重い”カタログとHBOブランドを足して、ストリーミングの“第一言語”を握るつもりだ。コンテンツの流量を増やし、当たりの確率を上げ、広告やバンドルの交渉力を上げる。社外評価も同じことを言う――“規模の経済”でストリーミング戦を一気に傾ける、と。同時に、寡占と価格の問題が噴き出す。米政界から「反トラストの悪夢」との批判、労組から「この合併は阻止すべき」との強い声明。政治と規制の地雷原を、ネトフリは承知で踏みにいった。
ここから先、私が注視するのは“スポーツ”だ。
ネトフリは「スポーツはやらない」と言ってきたが、2024年以降は手のひらを返している。WWE『RAW』の10年・約50億ドル(年5億)契約――2025年1月から米英などで毎週生配信。これで「週次ライブの運用」を身体で覚えた。そして日本市場では、2026年3月開催のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)全47試合の国内独占を取った。“既存加入の全プランで視聴可、追加課金なし”という提示で、地上波と他配信を一気に外堀から崩す。WBC東京プールの共同主催者・読売まで「今回はWBCIが当社を通さずNetflixに直接付与」と異例のコメントを出している。この動きは、日本のスポーツ権利市場の重心を確実にずらす。
配信ビジネスの“暗躍”が最も目立ったのは、サッカーのW杯だ。開催は4年ごとで、2014(ブラジル)、2018(ロシア)、2022(カタール)。2022年大会では、ABEMAが日本史上初の全64試合無料生中継に踏み切り、地上波中心だった視聴習慣を根底から変えた。深夜キックオフでもスマホで“ながら視聴”が可能になり、視聴者の動線はテレビから配信へと完全にシフトした。
この5年のスポーツ権利の地殻変動を、時系列で並べてみる。
・2022年W杯(カタール)――ABEMAが全64試合を無料配信。地上波はNHK+民放(テレ朝、フジ)が計41試合。視聴者の“主戦場”が配信へ傾いた決定打。
・2024–2025年――Netflixがライブへ本格参入。WWE『RAW』の大型契約で「毎週ライブ運用×広告」を立ち上げ、スポーツの“連続権利収入”を学習。
・2025年8月――NetflixがWBC2026日本独占を発表。読売が“直接付与”に言及。地上波の大型イベント領域に、配信が正面から入った瞬間。
・2025年12月――Netflixがワーナー買収合意。HBOの“プレミアム映像体験”と巨大ライブラリを抱え、映画・ドラマ+スポーツの二刀流を狙う。
スポーツ権利の“炎上点”は、どこにあるか。
まず、独占化による視聴導線の強制。WBCの例が典型だが、「見たいならそのサービスに入れ」という移動コストが、イベントのたびに発生する。
次に、価格の不透明化。ABEMAの“無料”は例外で、世界的にはサブスクリプション+イベント課金の二重取りに向かう圧力が強い。
最後に、言論の空洞化。地上波が持っていた“公共圏”としての役割――誰もが同時に同じ画面を見て議論し、ニュースで要点が共有される――が、プラットフォームの囲い込みで分断される。
ネトフリの“本当の思惑”は、スポーツで視聴者の“瞬発力”を獲り、HBO+ワーナーで“持久力”を固めることだろう。週次ライブ(WWE)や季節イベント(NFLのクリスマス、WBC)の“瞬間風速”でアプリを開かせ、HBOの連ドラやワーナーのIPで滞在時間を伸ばし、広告と課金の多層化でLTVを底上げする。自前のスタジオ群(ワーナー)で原価構造も締める。だから、買収とスポーツ権利の獲得は、別の戦線ではない。同じ地図の上で、同時進行の包囲戦になっている。
その先にあるのは、視聴者の“選択の自由”が実質的に痩せ細る未来だ。
映画・ドラマはネトフリ+HBOで、スポーツはネトフリ+リーグ直(NFL等)で――となれば、価格交渉はプラットフォームが握り、配信のUIとアルゴリズムが視聴を“最適化”する。
便利だが、危うい。
作品は“発見”されるのではなく“提示”される。大会は“共有”されるのではなく“囲い込まれる”。この構図を私はこのブログで「ステルス・ウォール」と呼んできたが、今回は露骨だ。壁は広告と権利、支払い導線と同時視聴機能の見えない層で築かれる。寡占が進めば、壁はさらに厚くなる。
予見しておく。
配信ビジネスの未来は“スポーツ覇権争い”が中核になる。リーグ側はグローバル一括販売を志向し、配信側は「国別独占+イベント内UX(同時視聴、クリップ、投げ銭)」で差別化する。日本ではWBCがその“初号機”になる。次はJリーグの一部パッケージ、プロ野球ポストシーズン、バスケ代表戦、総合格闘技の大型大会が狙われる。視聴者は――イベントごとに“壁”を越える覚悟がいる。権利の再編は止まらない。だからこそ、私たちは価格、権利、公共性、アクセス性について、声を上げ続ける必要がある。エンタメの自由は、便利さの対価で少しずつ剥がれ落ちるものだからだ。
――ネトフリがワーナーを呑み込み、スポーツに本格参入した。巨大化は、視聴者にとって“便利”と“負担”の両方を連れてくる。配信が未来を握るなら、未来の“公共性”はどこに置くのか。私は、そこに違和感を覚える。
「The Wall Street Journal」HPより


